陳述書によれば、貴ノ岩の関取昇進後というので12年7月以降のことであろうが、A氏は仕事のできない後輩について、貴ノ岩から「殴っておけ」と指示されたという。A氏が後輩を殴るのが嫌で口頭での注意しかしなかったところ、<次の日、私は岩関(貴ノ岩)から呼び出され、「なんで殴らなかったんだ」と言われ、貴ノ岩関から、顔面を、拳で殴られました。私は、口の中が切れました>と書かれていた。

 なお、貴ノ岩については、同じ裁判の一審で、引退したB氏による証言調書の中に、エアガンで後輩力士を撃ってふざけていたことや、後輩力士のみぞおちに何度も“ブルースリー・パンチ”を打ちこんだなどの行為も書かれていた。

 これらの証言がもし本当ならば穏やかではない。

 本誌が貴乃花部屋に取材を申し込むと、代理人の弁護士から回答があり、ここまであげた貴乃花親方と貴ノ岩が暴力を振るったという裁判での証言のすべてを強くこう否定した。

<いずれも事実無根の話です。このような事実無根の話を報道されるようなことがないよう、慎重にご対応されることを要望いたします>

 果たして真相はどこにあるのだろうか。本誌はA氏を自宅で直撃し、改めて陳述の詳細を聞かせてほしいと取材を申し込んだところ、A氏は「今は体調が悪いので、また今度にしてほしい」と言い、話は聞けなかった。

 原告側の弁護士にも連絡したが「裁判中なので、取材はお断りしています」とのこと。だが、一審に証人として出廷した元力士のB氏は、本誌の取材にこのように話した。

「親方が否定しようが、法廷で証言したことはすべて本当です。嘘偽りなく話すという宣誓もしましたからね。Aが殴られたところは直接見ていないが、当時、口とほっぺたが腫れていて『どうしたの?』と聞いたら、『失敗して師匠に殴られました』と言っていた。師匠の部屋の壁に少し血がついていた。Aの口の中が切れた血だというのは後で知った。怒られても仕方ない話ですけど、やりすぎ。Aは師匠の付け人をやるのはもう嫌だと言っていました」

 B氏自身も貴乃花部屋の別の先輩にまな板や素手で殴られた経験を法廷で証言していた。

「洗い物をしてて、声がしたから、振り向いたら、先輩から『呼んでるんだよ』と振り向きざまに殴られて、前歯が折れた。ちょうど口に当たったんです。歯は今もないままです。怒られて殴られて血が出ましたというのはあること。相撲部屋なんて荒くれ者の集まりですから、口だけで通用するような世界じゃない。鉄拳制裁はざらでしたから。度合いですよね。部屋で絶えず暴力がうずまいていたわけではない」

 貴乃花親方については、こう話した。

「師匠はアップダウンの激しい人。ニコニコしているのはアップの時だが、ダウンの時は部屋の力士、景子夫人にしか見せない別の顔がある。協会で何か言われると嫌な顔をして帰ってくる。貴乃花部屋では、断髪式をやってもらった力士って少ないんですよ。私もしていない。そういうことが多いこともあり、部屋を辞めた力士は引退後、あまり相撲界のことを話したがらないんです」

 角界から暴力を一掃するのは、一朝一夕でできることではなさそうだ。(本誌・小泉耕平、上田耕司)

週刊朝日 2018年2月16日号