林:まあ、挨拶まで。
小林:何人かのあとですけどね。僕のいちばん苦手なことですよ。困ったなあと思って、額に汗が流れ落ちてくるんですよ。順番が来て立ったら、頭の中が真っ白になりましてね。「本人は来たがったんですが、撮影があるので来られませんでした」と言うしかないから、まずそれを言いました。それで何を言おうかと思ったとき、あの人は僕と二人でメシ食ってるときに、いつもお母さんの話をするんですよ。それでお母さんが健さんに言ったという言葉をいくつか並べたんです。そして東京に帰って健さんに会ったんですが、ふつうなら「おい稔侍、行ってくれたらしいな。ご苦労さん」って言うでしょう? それが「おい稔侍、おまえの挨拶でみんな泣いたっていうじゃねえか。誰か録音してねえか」ですよ(笑)。ちょっとおかしいでしょう? でもそのギャップが好きなんですよ。おもしろくて。
林:お母さま、素敵な方だったみたいですね。
小林:後ろで待ってるときに、誰か……たぶん看護師さんだと思うんですが、僕のそばにすっと来て、「高倉健さんは病院に来て、お母さんのベッドのそばでずっと頭を下げて一日中座ってたんですよ」って言うんです。健さんはそのときにお別れしたから、お葬式には行かなかったんでしょう。あの人の性格を考えると、そのときのことが僕に対する借りになっていて、「鉄道員」のときにああいうことを言ったんじゃないかなと思ってね。