昨年7月6日、俳優・中嶋しゅうさんが初日の舞台上で倒れ、亡くなった。妻で女優の鷲尾真知子さんとは業界でも評判のオシドリ夫婦として知られ、本誌の「平成夫婦善哉」(2014年9月5日号)や「夫婦の情景」(04年3月12日号)にも登場。中嶋さんの急逝から半年経った今、鷲尾さんが当時や現在の心境について、語ってくれた。
──中嶋さんが亡くなった日、鷲尾さんは翌日に舞台「ふるあめりかに袖はぬらさじ」(東京・明治座)の初日を控えていました。
ゲネプロ(本番同様に舞台上で行う最終リハーサル)が終わったときに中嶋のマネジャーから「舞台で倒れた」という電話があって、病院に駆け付けました。そのときはもう意識はなく、「頑張れ、頑張れ」と声をかけましたけど……、無理だったということです。
──急性大動脈解離でしたが、それ以前にも症状のようなものはなく?
予兆はまったくありませんでした。その日の朝、私が先に家を出るとき、彼はいつもの場所に座っていましたね。だから本当にあっけなく、私の前からいなくなりました。翌日、電話で正式な病名を教えてもらって、「わかりました」と。
──そして鷲尾さんは、初日の舞台に立たれました。
これが私たちの宿命といいますか……。この世界のことを知らない人には、「なんでこんな日に舞台に立たなくちゃいけないの?」と言う人もいました。結果的に立つということを決めたのは、役者として生きてきた自分の性(さが)でしょう。でも、どうやって初日の舞台を踏んだのかというのは、記憶にないんです。周りはみんな心配していたみたいですね。一回、セリフが飛んだんですよ。客席にいた演出家は、「椅子からお尻が浮いた」と言っていました。やっぱりギリギリのところでやっていたんでしょう。稽古が体に染みついているのと、お客様を前にしての役者としての性、それでなんとか立つことができたんじゃないかと思います。