技能講習を巡る不正はこれまでにもあったが、これだけの人数になるのは極めて異例で、過去最大級とみられる。厚労省の担当者は、
「技能講習機関への業務停止命令自体が珍しい。補講の対象者が2万人を超えるような事例は聞いたことがなく、講習制度への信頼を揺るがしかねない」
と問題の深刻さを指摘する。
福岡労働局は、実態と異なる報告がされていたことを問題視。これまでの経緯について報告を求め、改めて立ち入り調査などをする方針だ。
実は監督する福岡労働局にも問題があった。業務停止命令を出した場合は公表すべきなのに、「事務的ミス」でしていなかった。コベルコ教習所は予約を断った一部の受講生には知らせたものの、自社のサイトでは玉掛け講習ができないことを「諸事情により」と説明。処分を受けていることは、ほとんどの人に隠されていた。
「サイトに講習中止のお知らせが突然表示されただけで、労働局の発表もなく、何が起きているのかわからなかった。もみ消されていたのではないかと思ってしまう」(前出の30代男性)
約2万3千人の受講生には、コベルコ教習所がこれから連絡して、補講を受けに来てもらう。人数が多いため全員終わるまでには、数年かかる可能性もある。連絡が取れない受講生もいそうで、不十分な講習を受けたまま、いまも危険な業務に多数が従事している。
さらにコベルコ教習所では、ほかの不正も浮上している。広島教習センター(広島市安佐南区)の移動式クレーン運転実技教習で、教習時間の不足が見つかった。詳細は「現在調査中」としているが、複数の拠点で手抜き講習が横行していた疑いもある。
神戸製鋼では10月に製品データの改ざんが発覚。グループ企業を含め管理体制を強化し、再発防止に取り組んでいる。新たな不正が明らかになったことは、信頼回復に向けて大きな痛手だ。神戸製鋼の広報担当者は、
「大変申し訳なく、重く受け止めている。コベルコ建機やコベルコ教習所を厳しく指導していきます」
としている。
日本労働弁護団幹事長で労災問題に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士はこう指摘する。
「技能講習は労災を防ぐための大切な制度。不十分な講習で被害を受けるのは現場で働く人たちだ。時間不足が長年続いていたとすれば、これまで見抜けなかった国の責任も問われる」
(本誌・多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事