蒼井:ついていたいろんな垢がドロッと大きくはがれた感じがありましたね。阿部さんのセリフを聞いてるだけで涙が出てきました。「今やっと陣治の気持ちに気づいたのか」という。リハーサルのときからずっと涙がとまらなかったです。
林:救いがありますよね。暗くて凄惨なことも行われるけど、最後、十和子は鳥とともに羽ばたくような気持ちになって、きっとこのあと子どもを産んで新しい人生を始めるんだろうなという予感がする。憎むことも愛することもマックスまで行っちゃう女性のすさまじさを表現して、すごいなと思いましたよ。
蒼井:私は相手役の方に恵まれることが多くて。相手役運には自信があるんです。今回も阿部サダヲさんでよかったなと思いますし。
林:阿部サダヲさんとは初めてですか。
蒼井:初めてです。同じ作品に出演させていただいたことはあるんですけど、お芝居をするのは初めてだったので、最初はドキドキしました。でも、大阪弁というお互い共通のハードルがあったのがよかったです。うち、両親が大阪なんですけど、その分、耳なじみがありすぎて、耳で聞いてるのと自分の音感とが合うわけではなくて、しゃべりながら「あれ?」と思うことがあって、阿部さんと一緒に控室で練習してました。
林:「大阪弁はラブストーリーに向いてない言葉だ」と田辺聖子さんがおっしゃってましたけど、どうでしたか。「好きやねん」とか、「ワシのものになってくれや」とか、「ええやんか、ええやんか」とか(笑)。
蒼井:今回の作品は、東北の言葉でもぜんぜん違うだろうし、標準語だとウソくさくなるというか。ロケ地にしても言葉にしても「大阪」が大事な要素なんだと感じていました。
林:10年ぐらい前、ブレーク前の阿部サダヲさんにここに出ていただいたけど、すごくおもしろい方でした。
蒼井:飲まれたことはないですか。
林:ないです。
蒼井:飲むとまたおもしろいですよ。
林:阿部サダヲさん、前にここに出ていただいたときは、まだこんなにすごい俳優さんじゃなかったけど、今や引っ張りだこの人気俳優さんになりましたよね。
蒼井:再来年の大河ドラマ(「いだてん」)の主役ですからね。オリンピックの話ですよね。いいよなあ。
林:今度、女性ものの大河をやるとき、蒼井優ちゃん主役じゃない?
蒼井:大河の主役なんて無理です。背負えない。(構成/本誌・直木詩帆)
※週刊朝日 2017年11月3日号より抜粋