蒼井:十和子みたいな女の人には、男の人が寄ってくるでしょうね。利用されるだろうし、それを見て放っておけない人も出てくるだろうし、厄介なタイプではあると思うんですけど。
林:十和子は自我が強い女性ですよね。ものすごく自尊心が強いから、自分の心の中で折り合いがつかなくて、だからいつも陣治に対してはあんなふうに不機嫌なんだと思いますよ。陣治には一緒に住んでいても絶対に身をまかせない。そのかわり松坂桃李さんの水島にはすぐ身をまかせてしまう。ジグソーパズルがスパッとはまることにいつも飢えてる感じ、すごくわかります。
蒼井:演じていてわかったのは、十和子は働きもしないで、何もしなくても陣治が食べさせてくれるから、「この人といてラクだな」と思う瞬間がいっぱいあるんですけど、それを絶対に認めたくない。なぜなら、十和子は竹野内さん演ずる黒崎という男に似合う女だから、という複雑な感情なんですよね。「十和子のプライドが、幸せになることの邪魔になってるな」ということを演じていて感じました。沼田まほかるさんが描かれるヒロインって、大体イヤな感じですね。
林:すごく人気のある作家さんだとは聞いているんですけど、私、1冊しか読んだことがないんです。「イヤミス」ですよね。読んだあとイヤな気分になるミステリー。
蒼井:というジャンルがあるみたいですね。
林:でも、「イヤミス」っぽいストーリーが、最後は最高のラブストーリーになるんですよね。ネタバレになるから、詳しくは言えませんけど。
蒼井:最後のシーンが失敗したらどうしようもない作品になってしまいますからね。あのシーンは「私は映画をやっててよかったな」と思える2日間でした。
林:あの最後のシーン、2日がかりで撮ったんですか。
蒼井:そうなんです。「マジックタイム」という、夕暮れどきの影がなくなる時間しか狙わない撮影だったので、「あと2分!」とか言いながら撮ってたんですけど、そのおかげもあって、ものすごい集中力でみんな動くことができたので、「映画っていいな」って久しぶりに思える現場でしたね。
林:あのシーン、阿部サダヲさんがすごくカッコよく見えて。蒼井優ちゃんも「本当はこういう子だったんだ」と私たちも納得する感じで、2人の演技が素晴らしかったです。