数々の伝説を残したボクシング界のカリスマ・辰吉丈一郎さん。そのボクシング人生は順風満帆なものではなかった。妻のるみさんとともに当時最速の8戦目で世界王座奪取した矢先、夫は網膜剝離を発症した。当時のルールでは引退だが、現役続行を強く希望。復帰は業界だけでなく社会問題にもなり、長い議論の末に特例として認められた。その時の妻の言葉は「私の目じゃない。好きにすればいい」だった。
※パンツ丸見えの「ただいま事件」“浪速のジョー”辰吉丈一郎の妻はスゴイ!?よりつづく
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妻:お前のためにやめるとか、やるとか、迷惑。だって、私のためやと言うなら、毎月決まった給料を持ってこいやって話やもん。
夫:尽くされたら重い。あんたのことやろって他人事のほうがいい。
妻:(ため息交じりに)あのね、私の言った言葉をそのままの意味で受け取らんといて。「あんたの目やん」っていうのを。素直やからそのまま取るねんなあ。
夫:純粋なんや。手術が終わったら視力0.02やったけど、いろいろ努力して0.5まで上げた。目のトレーニングとか調べて、緑を見て。大阪では星が見えないから岡山に帰って星も見た。1年半かかった。
妻:あの時は、めちゃ生駒山見てたな。信じる者は救われるねん。
夫:るみが嫁さんじゃなかったらこうなってないやろうな、世界チャンピオンにもなってないと思うし。人間って何かのズレから何もかもがワヤになる。
妻:私は関係ないよ。私が嫁じゃなかったら20回は防衛してると思うけどね。
――妻の職業は「辰吉丈一郎の妻」。それが二人の共通認識だ。夫は国内ライセンスを失効した今も世界挑戦を目指すと公言し、トレーニングを続けている。
夫:誰のためでもなく自分のため。自分のことをちゃんとできへん人間が、家族のことをどうこうするのはまず不可能やもん。
妻:目の時と一緒。あんたの人生やし。そう言わせるだけの努力はしてるから。何もしてなくて、やるやると言ってるんじゃない。