この機能障害は70歳以上の入院患者の3人に1人にみられるという報告もあり、高齢者を診ている医師であれば、日常的に経験していると、山口さんは言う。

「高齢者医療に詳しい医師でも完全に予防するのは難しい。また、いったん発症すると、戻すのは簡単ではありません。発症前の状態まで回復できるのはたったの3割で、入院関連機能障害がきっかけで状態が悪くなり、亡くなるケースもあります。だからこそ、できるだけ外来や在宅での治療ですませ、やむを得ない事情がない限り入院はさせない。これが最近の高齢者医療の考え方です」

 なぜ、入院関連機能障害が起こってしまうのか。そこには“リロケーションダメージ”と“廃用症候群”という問題がある。

「リロケーションダメージとは、周囲の環境が変わることで生じる心身の問題のこと。入院に限らず、引っ越しや高齢者施設への入居などでも発症します。特に認知症がある高齢者は起こりやすいので注意が必要です」(山口さん)

 入院中は規則正しい生活になる一方、食事や就寝時間が決められ、自宅で暮らすような自由は認められない。また医師や看護師に終始管理されている状態が続く。環境が変わったことによる居心地の悪さに、病気や治療のストレスが加わり、不安や混乱などの精神症状をきたしやすいという。

 リロケーションダメージで最も問題となるのは、“せん妄”だ。意識障害の一つで、幻覚、興奮するといった症状が起こる。原因は脱水、発熱、多剤処方などさまざまだが、入院もその一つで、入院中の認知症患者の3~4割にせん妄がみられるという報告もある。

 山口さんによると、このせん妄が認知症の進行を早めるだけでなく、認知症そのものを発症するきっかけにもなるという。

「さらに入院中にせん妄を起こすと、機能障害を改善するリハビリを拒否するようになるので、ほかの機能障害が進むおそれもある。死亡リスクを高めることもわかっています」(同)

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