もう一つの問題の、廃用症候群とは“安静(不動ともいう)がもたらす全身の機能低下”のこと。藤田保健衛生大学七栗記念病院(津市)院長で、回復期リハビリテーション病棟協会会長の園田茂さんは、「特に虚弱状態の高齢者にみられる症状」と話す。具体的には、次の五つの機能低下がよくみられる。

【1】筋肉 筋肉を使わないことで筋力が低下。手足が痩せて細くなり、歩行などが難しくなる。海外の報告では、2週間の安静で筋肉が2割以上落ち、以前と同じ状態に戻すまで、リハビリで6週間かかったという。

【2】関節・骨 関節の周りはコラーゲンなどの結合組織で覆われており、動かさないでいるとそれらがくっついて固まってしまう。“拘縮”という状態で、膝が曲がりにくいなど可動域制限が起こってくる。

「筋肉と違い、一度固まった関節を元どおりにするのは難しい。ですから、拘縮を起こさないことが大事になります」(園田さん)

 骨は、骨を作る骨芽細胞と壊す破骨細胞の働きで常に新しく生まれ変わっている。体を動かさずにいると刺激が少なくなり、壊す細胞が活性化する。そのため、骨がもろくなる骨粗しょう症になりやすい。

【3】心臓 寝たままだと血管内の水分が血管外に漏れてくるため、体内を巡る血液の量が減り、酸素や栄養が不足する。それを元に戻そうと心臓の動きが通常よりも速くなり(頻脈)、動悸などの症状が出てくる。

【4】肺 横になると、重力で下がっていた肝臓や腎臓などの臓器が肺のほうに寄ってくる。肺が圧迫されるため、呼吸機能が落ち、肺炎などのリスクも高まる。

【5】腸 動き(蠕動運動)が悪くなるため、便秘やおなかの張りなどの症状が出てくる。食べものの通過障害が起こり、イレウス(腸閉塞)を起こす危険性も。栄養状態も悪くなるため、虚弱がさらに進んでしまう。

「そのほか、ベッドの上で寝たままでいると脳への刺激が減るため、頭の回転が遅くなり、認知機能の低下につながります。床ずれができる、体力がなくなる、血液がうっ滞して血栓ができやすくなるなど、廃用症候群の悪影響は全身に及びます」(同)

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