聞けばアルバイトは旅館での清掃仕事。集落から車で1時間かけて“通勤”。10畳ほどの広さの客室を一人で隅々まで掃除する。客室は14部屋あり、午前8時から午後3時までぶっ続けの作業だ。現在64歳の住職には過酷な立ち仕事だ。アルバイトを始めたのは3年半ほど前。以前は別の旅館で配膳のアルバイトをしていた。

「お寺としての収入は、年間で3万円あればいいほうですね。何とか貯蓄を切り崩しながら生活できていたんですが、立ちゆかなくなってアルバイトを始めたんです。お金がないんです」

 住職は20年前に父親から寺を継いだ。そのころからすでに、お寺の収入はほとんどない状態だった。それまでは、千葉県内の寺に勤めていたという住職の当時の月給は約50万円。

「それが今はアルバイト代の7万円で生活です。離婚して、子どもとも離れてしまって一人暮らし。その日に食っていくだけで手いっぱいですよ」

 寺の収入がないのは檀家(だんか)が“減って”いくからだ。この寺の檀家の数は20軒弱だが、実際に“人が暮らす”世帯は10軒ほど。

「若い人はみんな都会に出てしまって、こんな田舎には戻ってこないんです」

 必然、お布施の額は減る。そのうえ、残された老人たちはそんなにお金を持っていない。年間に受け取る護寺会費は高くても1軒3千円だ。

 住職は一時、“モグリの坊主”にも手を染めたという。要望のあった別宗派のお経を勉強し、袈裟(けさ)も変えて法要をする。「心は痛んだ」が、「お金のためなら仕方がない」と読経した。

 そんな差し迫った経済状況の中、傷みがひどくなってきた寺の修繕費を捻出しなければならない。しかし、檀家には寄付もお願いしづらい。窮状を訴えようものなら「そんなに言うなら檀家やめるよ」と、にべもない反応だ。檀家の法事があっても、高額なお布施は期待もしなければ、求めることもなくなった。

「仕方がないですよね。どこもお金がないんですから。一昨年の大雪で壊れた雨どいは自分で修理しました。みっともないのだけは何とかしないといけないと思って……」

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