政府は、農林水産物や食品の輸出額を1兆円に増やす目標を1年前倒しして19年に設定した。だが、16年の実績は前年比0.7%増の7503億円にとどまった。輸入規制が計画の達成に影を落としかねない。
海外で日本産食品への不信感がなかなかなくならない要因の一つとしてあげられるのは、政府の原発問題への対応だ。安倍首相は13年9月、国際オリンピック委員会の総会で、事故を起こした福島第一原発を「アンダーコントロール」と発言した。だが、実際には汚染水がダダ漏れし、制御できない状況にあることは海外メディアも伝えている。
そうした中で6月6日、茨城県大洗町の日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターで、作業員5人の被曝事故が起きた。
26年前に封がされたプルトニウムとウランの酸化物が入った容器の中身を確かめようとしたところ、ビニール袋が破れて放射性物質が飛び散った。原子力機構は「ビニール袋が破けるのは想定外だった」と言うが、過去にこのセンターで働いたことのある50代の原発作業員は、安全管理がずさんだったと指摘する。
「放射能で汚染されたものを解体するとき、床にシート1枚を敷いただけでした。原発なら四方を養生するなど安全対策を取るのに、それすらしないことに驚いたことを覚えています」
この作業員によると、現場レベルでのこうした違いは、潤沢な資金がある電力会社と、厳しく管理された国の予算で研究開発を行う原子力機構との差だという。実際、原子力機構の業務を請け負う会社からはこんな不満も出ている。
「機構に人を派遣すると、1年目より2年目のほうがもらえる派遣費用が下がる。経験値とともに給料も上がると考えるのが普通ですが、機構の言い分は『習熟すれば早い時間で作業ができるはず』です。安全面がおろそかにならないか心配です」
一昨年の12月、政府と自民党行政改革推進本部は原子力機構と関連する企業の契約方法の見直しを求め、一社応札など競争性のない契約はできなくなった。原子力施設での作業経験の少ない企業の参入が増えれば、安全がおろそかにならないかと心配する声も出ている。
こうした情報は、海外にも素早く伝わってしまう時代だ。日本産食品の輸入規制を解除したいなら、信頼を得られる原子力政策が求められるのではないか。
※週刊朝日 2017年6月30日号