こうしたことが起きるのは韓国と同じく、国民の間に日本産食品に不安を感じる人が多いからだ。最近までシンガポールで人材コンサルティング会社を経営していた齋藤一恵氏は、現地の人たちから「大きな声では言えないけど、日本の食材を食べるのはやっぱり怖い」と言われたという。
「やはり放射能を心配しているのです。シンガポールでは日系企業の進出で日本食ブームが起きていますが、和食店では輸入規制のために売り上げに影響が少なからずあったようです」
一方、台湾のように日本産食品の輸入規制が政権抗争の材料となってしまっているケースもある。
台湾では福島、茨城、栃木、群馬、千葉の酒類を除くすべての食品を輸入停止にし、5県以外の野菜、果物、水産物なども全ロットを台湾内で検査する。
蔡英文総統は就任後の昨年6月、福島県を除く4県の食品の輸入規制を段階的に緩和する方針を打ち出したが、野党の国民党から強硬な反発があり、緩和が先送りされた経緯がある。
台湾情勢に詳しい東京外国語大学の小笠原欣幸准教授は、「国民党が民衆の原発アレルギーを利用して輸入規制緩和に反対している」ともいう。
「台湾にはもともと根強い反原発運動があり、科学的な根拠を示して日本産食品に放射能汚染がないと言っても通じない。メディアは5県の食品を『核災食品』と報道し、小売店の棚からこれらの産地の商品が見つかるたびに撤去騒ぎが起きます。親日の台湾を突破口にして他国の輸入規制の緩和につなげたいところですが、厳しいのが現状です」
台湾と同じく福島、茨城、栃木、群馬、千葉を対象に、野菜、果物、牛乳などの輸入停止措置を取る香港。経済貿易代表部に規制を続ける理由などを尋ねると、「食品の安全が最優先。今後も国際原子力機関などによる評価を考慮しながら、輸入制限措置を見守る」とし、現時点での解除の考えは示さなかった。
日本政府は3月、世界貿易機関(WTO)に、台湾や中国が実施している日本産食品の輸入規制を緩和、撤廃するよう求めた。