西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、それまで感覚的に表現していた野球用語が「数値」と結びつけられる時代になったという。

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 大リーグのテレビ中継などを見ている方ならわかると思うが、投手の1分間あたりの投球の回転数が紹介されるようになった。打者ではホームランの弾道や初速、スイングスピードなども紹介される。時代はここまで来たなと感心する。

 日本でも、各球団が続々と最新鋭の機器を導入しているという。米軍の迎撃ミサイル「パトリオット」開発で生まれた技術を応用したデータ分析機器で「トラックマン」と呼ばれる。投手視点で言えば、リリースポイントの位置まで数値化されるという。

 あいまいで、感覚的な部分であった球の「キレ」「伸び」といった野球用語も、回転数などと結びつけて数値化できる時代が来たということだ。「毎分何回転」で表示される数字は、大リーグでは直球の平均値が2100回転。これを超えると「キレがいい」となるという。ダルビッシュ(レンジャーズ)は2500回転を超えており、ソフトバンク・千賀も試合によっては2500回転を超える時もある。投球の「角度」も投手のリリースポイント、ボールの軌道などの数値でわかる。

 これらの数値は、選手自らの状態把握と同時に、教える側の指導者にも「根拠」となり得るよね。例えば「お前の球は捕手の手元で伸びを欠いている」と選手に指摘したとする。今までは感覚的なもので、選手本人が自覚していないと、なかなか現実のものとして捉えられなかったと思うが、良い時との回転数を比較されれば、すぐに納得できるものとなるだろう。

 このコラムでも、私は回転数やスピンが足りない、などと話してきたことがあった。投手総合コーチを務めた2013年の第3回WBCの田中将大(現ヤンキース)には、WBC球で回転数が足りず、本来のボールが投げられていないと指摘したことがある。当時は感覚的なものだったけどね。

 
 回転数に着目するようになると、若い選手への指導法にも変化が出ると思う。春季キャンプの初日となる2月1日のブルペン。若い投手はこぞって低めに投げる。しかし、私が思うのは、まず高めに、スピンの利いた球をとにかく投げることだと感じているし、実際に西武の監督時代にも伝えてきた。低めに球を投げるには、体や肩がしっかりできて、マウンドの傾斜を使って体全体を使えるようになってからでないと、正しく投げられない。2月上旬の春季キャンプで、低めに投げている投手は、回転数が足りていないことに気づくだろう。

 同じことは小、中、高校生にも言える。まだ体が成長段階の時期では、低めに無理やり投げることを強いるより、高めにスピンの利いた球で空振りを取らせることを指導したほうがいい。スケールの大きい投手ならば、なおさらである。数値が出ることで、選手の理解は深まる。

 プロ野球界も、機器を導入した球団でもまだ試験段階のチームが多いだろうが、数年のうちに12球団すべてが活用することになるだろう。導入が遅れると、戦術面にも大きな差が生まれる。相手投手の分析においても、曲がり幅や回転数もわかるわけだから「ウチの○○に似ている」と具体的な指示を出せる。編成面でも、クローザーの獲得を狙う際に、空振りの取れる直球を投げられるかを回転数から判断できる。データ戦略は完全に新時代に突入した。

週刊朝日  2017年5月19日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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