作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、安倍昭恵首相夫人を「水戸黄門アイデンティティーがある」という。

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「UZUの学校」というのがあるらしい。安倍昭恵さんが主催し、校長を務める“講座型スクール”だという。49歳までの女性を対象にしたもので、「もっと女性が明るく楽しく」を目指しながら、毎回、ゲストを招いて様々なテーマで講義をするとか。

 フェイスブックでは谷査恵子さんが講座の主催者になっているが、昭恵さんが私人としてやってるのか、公人としてやってるのか、谷さんが勝手にやってる(←酷い)のか、どんなお金で誰がどのように運営しているのかは分からない。UZUの学校の懇親会は首相官邸で行われているようだけど、その食事代やら酒代やらが私たちの税金で払われているのかどうかも、よく分からない。

 講師にはアーティストのスプツニ子!さんや、ブロガーのはあちゅうさんといった若者受けする文化人や、庵野秀明さんといった意外な大御所や、古市憲寿さんとか駒崎弘樹さんといった“若手”言論人とか、昭恵さんの交友関係の広さがうかがえる。謝礼はいくらか分からないが、豪華だ。

 ところで、この「UZUの学校」、そもそもは「水戸黄門プロジェクト」と呼ばれていたという。

 昭恵さんと共に、この学校の構想を練ってきたという男性が、ネットメディアで、こう語っていた。

「最初は『水戸黄門プロジェクト』だったんですよね。昭恵さんが各地を訪ねていって、現地の活動に入り込んで交流するという構想もありました。隣で一緒に農作業していた女性がふとほっかむりを外した時に、周囲が『あなたは昭恵さん?!』とどよめくみたいな(笑)」

 これを読み、長い間の疑問がするする解けるような気持ちになった。不思議だったのだ。昭恵さんは何故、「気さくである」ということで、これほど高く評価されているのだろう、と。

 
 でも、“水戸黄門”で一発理解だ。昭恵さんには水戸黄門アイデンティティーがある。それは見えない印籠を、使いまくってきた人生だ。彼女がそれを自覚的に使うというより、黄門の前で土下座する民の振る舞いが、彼女に印籠を使わせ続けたのかもしれない。そう、この国の人の多くは、黄門様(=気さくに振る舞う絶対権力)が大好きだ。

 それにしても恐ろしい時代だと思う。首相官邸に呼ばれた人たちのはしゃいだブログや昭恵さんを絶賛する様は、しっかり残ってる。総理に批判的なポーズを取る人も、アッキーにはめろめろというパターンはけっこうある。ジャーナリストで元国会議員の井戸まさえさんが、昭恵さんが使ったのは「根拠なき権力」だと論破していたが、まさに、根拠なき黄門振る舞いに、人々は頭を垂れてきた。そしてそういう人たちは、いざという時に、沈黙を選ぶ。

 私の知人も昭恵さんに呼ばれたことがあると言っていた。「総理批判しにくくなるから」と彼女は断ったそうだが、見えない印籠がきちんと見えない、という冷静さと知性、つくづく大切だと思う。公人でも私人でもなく、黄門である昭恵さんに振り回されないために。

週刊朝日  2017年5月5-12日号