サ:4年ほどかかりました。とうとう故郷のあの駅を見つけたとき、両親に「インドに行ってもいい?」と許可を求めました。僕を育ててくれた父母の気持ちを傷つけたくなかったんです。母は言いました。「もちろんよ! 私があなただったら、同じことをするわ」って。
ロ:うらやましいですね。私は母に対してそれはできなかった。私には勇気がなかったんです。
サ:インドの実母に会って、自分の肩にかかっていたものがスッと軽くなりました。もう「会いたい」という夢や、重荷をひきずらなくていい。常に「郷愁」のようなものを抱えていかなくてよくなったんです。
ロ:私には「実父に会いたい」と思う一方で「パンドラの箱を開けるのじゃないか」という思いもあった。妹はすごく心配してくれたんです。「お父さんがいい人だったらいいけど、そうじゃなかったら……」と。
サ:でも結果はよかったのですよね。
ロ:はい。ニューヨークのホテルの部屋で抱き合って涙にくれて、3時間くらい話をしました。会ってみて自分が父に似ていることをたくさん発見したんですよ。音楽やユーモアのセンス、色の好みとか。
サ:僕は実の父には会っていないんです。あなたの体験に感銘を受けます。
ロ:父に会って欠けていたリングが元に戻ったというか、自分の人生にバランスを与えてくれた気がします。
サ:僕が自分の経験を本に書こうと決心したのは「同じような状況にある人の助けになるかもしれない」と思ったからです。
ロ:私もあなたの経験に勇気づけられました。私たちのような人はたくさんいると思います。私が体験を話すと「実は私も……」という人が何人もいたし、実際に私の経験を参考に、3年かけて実父を探し出した女性もいます。残念ながら彼女のお父さんは亡くなっていましたが。
サ:人生はパズルみたいなもので、それを完成させるためのピースを見つけるのは自分自身。強い決意と忍耐があれば、不可能なことはないんだと、僕は自分の経験から知りました。
ロ:そのとおりですね。
サ:トライしてみないとその向こうに何があるかはわかりません。傷つけられるかもしれないし、生活がおかしくなってしまうかもしれない。でもそうしないとトンネルの向こう側にある光は見えないですから。
※週刊朝日 2017年4月14日号