
ファット・タイムこと肥満時代のマイク・スターンが大活躍
Fat Time In France (Sapodisk)
しばしば「マイルスばっかり聴いていて飽きませんか」と聞かれるが、飽きません。だって飽きるような聴き方をしないからだ。マイルスに限らず音楽には接し方というものがあり、自分なりの手法を体得すれば飽きるなどということは起こりえない。よく「もう飽きたよ」とか「昔はいいと思わなかったけれど最近聴き直したらいいと思った」などという声を耳にするが、いずれも聴き手としての修業がなっていないだけの話であり、音楽の側にはなんの罪もない。「ブートももうたくさん」と思うのも同様の甘えであり、「もうたくさん」と思わないように付き合う術を会得できなかった自分に非があると知るべし。
とはいえさすがにマイルスばっかり聴いてれば飽きますよね(ってどっちなんだ)。これだけブートが当たり前の時代になってくると「もうたくさん」を通り越して、ごくごくフツーのCDに思えてくる、そこが怖いところでもあるわけですが、ナカヤマヤスキ以外のカタギのみなさんは出てくるブート全部聴く必要も買う義理もなく、よって「もうたくさん」と思うことはないのです。
というわけでこのサポディスク盤は、カムバック・バンド1982年5月はフランス、トゥールーズにおけるライヴを収録した、その名も『ファット・タイム・イン・フランス』。この強引なタイトルがすばらしい。ちなみに"ファット・タイム"とはマイク・スターンが肥満だったことからマイルスがつけたニックネームだが、和訳すれば「フランスの太っちょ」といった感じだろうか。もっともスターンはその後ダイエットに成功、懸念されたリバウンドもなく今日に至っている。ふと思ったのですが、ジャズ・ミュージシャンを主役にした「ダイエットの極意」とか「ワタシはコレでタバコをやめました集」など出したらどうか(そうですか、売れませんか)。
トゥールーズはフランスで6番目の大都市。コンコルドやエアバスなど航空宇宙産業の拠点であり、1229年創設のトゥールーズ大学を中心に7万人以上の学生を擁する学問・研究都市の顔をもち、名物料理は白インゲン豆の煮込み料理カスレとかいってるうちに"ジャーン"と鳴り響き、ベティ・メイブリーがバック・シートでファンクの腰をくねらせる。いまいち意味がわからない? えーいかまうものかの勢いでファット・タイムが飛ばし、なるほどアルバム・タイトルになっただけのことはある。ファーストとセカンド・セットをぎっちり1枚のCDに収納した親切設計がうれしく、音質も良好なり。
【収録曲一覧】
1 Back Seat Betty
2 My Man's Gone Now
3 Aida
4 Ife
5 Fat Time
6 Jean Pierre
(1 cd)
Miles Davis (tp, key) Bill Evans (ss, ts, fl, key) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)
1982/5/10 (France)