安心して自宅で逝ける──。高齢化が進むこの国で、このテーマも住居を決める選択肢のひとつになるかもしれない。

 神奈川県横須賀市は、在宅医療に取り組み、病院で最期の時を迎えることが大半を占める中、20万人以上の都市での在宅死亡率は、全国トップの22.9%(14年)だ。

 取り組み始めたのは11年ごろ。市の川名理恵子・地域医療推進課長は、

「がん患者の方が、治療方法がなくなって退院し、自宅で途方に暮れる姿が散見されました。在宅でも、緩和ケアが受けられる、暮らしやすいように医療と介護の専門職が支えてくれる方法があることを知らない人が多かった」

 と話す。

 横須賀市の高齢化率(65歳以上)は現在約30%。市が推計したデータによると、25年には高齢化率は2ポイントほど上がると予想され、年間死亡者数は約5900人と見込まれる。市による高齢者福祉に関するアンケートで、人生の最期を自宅で過ごしたい人が60%を占めた。

 在宅医療に先んじて取り組んでいた横須賀市医師会。副会長の千場純医師は、

「在宅医療で誤解されるのが、寝たきりという印象をもたれることです。家で暮らす意味が大切なんです。末期の方であれば、最後のひと時。一人暮らしの方の中には、介護も取り入れ快適に暮らせ、生活の質も上がり、身体的な衰えを防ぐことができる」

 と説明する。ある時は医師が訪問診療し、ある時はケアマネジャーやヘルパーが訪れてサポートすることで、たとえ末期がん患者であろうとも、自宅で日常生活を「快適」に過ごせる。

 1月下旬、千場医師の在宅医療に同行した。ケアマネジャーや看護師も一緒に、3時間ほどかけて患者の自宅やケアホームなど4カ所を回った。

 末期がんで思うように動かない体にいら立ちを見せる患者には、落ち着かせるように治療方法を説明し、軽度の認知症の高齢者には、会話を交えながら診療していた。

 昨年末から在宅医療を利用している窪田富代さん(60)は、5年前に胃を全摘出している。

「胃を切られちゃったでしょ。余命はもうないんだなぁと頭をよぎりました。先生がうちに来て診てくれるという話を聞いて、それいいなと思いました。それまで1~2週間に1回、病院に通っていたんですけど、けっこう大変なんですよね。午後診察だと、半日はかかりますから。入院のほうが楽だと思ったこともありましたが、慣れ親しんだ自宅で最後まで治療できるのがいいです」

週刊朝日 2017年3月17日号

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