漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、「就活家族~きっと、うまくいく~」(テレビ朝日系 木曜21:00~)について、昭和の名作「岸辺のアルバム」を想起させるが、同時に大きな違いを感じるという。
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岸辺に建てたマイホーム。記念撮影をする幸福そうな家族。このドラマは、家族の崩壊と再生を描いた名作「岸辺のアルバム」(1977年制作)へのオマージュを随所に感じさせる。
「岸辺」に出てくる家庭の危機は、夫の会社の倒産騒ぎに妻の不倫、娘の強姦事件と息子の受験。もうこれで十分なのに、平成の家庭はそれどころじゃない。
夫(三浦友和)は、部下へのセクハラ疑惑を捏造され退職。中学教師の妻(黒木瞳)は、引きこもりの生徒との不適切な関係を疑われ、ストレスでホストクラブに入りびたり、退職。
娘(前田敦子)は、職場恋愛のこじれと女上司のパワハラにより退職。三流大学生の息子(工藤阿須加)はブラック就活塾に金を搾り取られ、まともな就職はままならず。
5話にして、父はやっと退職したことを家族に打ち明け、息子が叫ぶ。「どうすんだよ! ウチ全員無職じゃん!」。普通の家族だったら全員出家したくなるレベル!? 絶望感みなぎるリビングから歩み出す妻。
夫「どこ行くんだよ?」
妻「ホストクラブよ!」
行くんかーい。吉本新喜劇だったら、全員大コケするタイミング。昭和の家族は、抱えた秘密の重さに押しつぶされていたけれど、平成の家族は率先して地雷を踏みに行っちゃうのだ。
そんなハイパー展開のせいか、唐突につっこまれるエロい場面。妻役の黒木は、いじめを受けた生徒の父親から「(全裸にされた)息子と同じ思いをしてみろよ。脱げよ」と言われて、脱ぐ。いるのか黒木の脱衣シーン、必要なのかブラ姿。でも、「ここで脱ぐ私、女優です」って顔した黒木に投げられたセリフが、「そんなババァに何もしねぇよ!」だったから。「脱いだ上にババァと言われる私」って、輝く黒木の顔を見せつけられた。
一方、娘役の前田あっちゃんは顧客に襲われかけて「やっぱり私には無理だった~、枕営業!」って。これは何か、AKBの元センターに「枕営業」って言わせるプレイか。無理じゃないメンバーもいたのかなどと、妄想が広がるのである。かつての「岸辺」は、水害で流されそうな家から、家族の象徴であるアルバムを持ち出すというラストだった。果たして今回も家は流されるのだろうか。アルバムは、家族は無事なのだろうか。もしかして、お父さんだけ流されたりして。
※週刊朝日 2017年3月10日号