来月のWBCに向け、早い段階から先発ローテーションを固めているという小久保裕紀監督。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は「まだ早い」と指摘する。
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3月のWBCまで1カ月を切った。日本ハムの大谷翔平の辞退はショックだ。彼を失うことで、先発ローテーションも大きく変化するし、小久保監督も頭を悩ませるだろうな。だが、こういう時こそ、指揮官が思うように決断してほしい。
前回2013年大会で投手総合コーチを務めた私の経験から話をしたい。まず投手の調整は実際見てみなければわからないということだ。報道などを見ると、小久保監督は早い段階から先発ローテーションを固めているようだが、まだ早い。私は実際に田中(現ヤンキース)に開幕投手を伝えたのも最後の調整登板となった大会1週間前の時だったと記憶している。
なぜなら、当時は田中と2枚看板と考えていた前田(現ドジャース)が、肩に不安があった。合宿初日のキャッチボールを見て、山本浩二監督と二人でビックリしたのを覚えている。本来なら彼は招集できない状況だったが、山本監督が広島の監督を長年務め当時の野村謙二郎監督と厚い信頼関係があったから、招集できた。彼の先発起用も直前まで決められなかった。
今から先発ローテーションを固める利点は、選手との信頼関係を示し、選手も逆算で調整を進められるという点であろう。ただ、これが日本の統一球ならば問題ない。しかし、今回扱うのはWBC球だ。普段とは違う箇所が張ったりするし、球種も操れる球とそうでない球が出てくる。それも、100に近い状況で腕を振らないとわからない部分がある。だから、直前まで見極めた上で、先発ローテーションを固めたほうがいいと私は考えた。
今回、合宿は23、24、26日に練習して、25日に練習試合と短い。所属球団のキャンプでじっくり調整してほしいとの小久保監督の配慮だし、3年以上かけて築き上げてきたチームで連携プレーに時間を割く必要もない点は理解できる。しかし、投手は2~3回ブルペン投球を見ないと、実際に本来の力を発揮できるかどうかの見極めは難しい。
出場メンバー28人ちょうどしか合宿に呼ばないことにも意見はあるだろう。ふるい落とす作業は首脳陣にも大きな負担を強いるし、球団にも迷惑はかかる。個人的には必要なことだとは思うが、過去の大会とは違う試みをしたのだから、大会が終わった時に是非を検証すべきだ。
ここまで思うままに記してきたが、私の考えの根底にあるのは「状態の見極め」を基軸にした考えだ。小久保監督は3年以上選手を見てきたから「信頼」と「選手の調整のしやすさ」を重んじていると感じる。ただ、「勝つための起用」だけは絶対にぶれてはいけない部分だ。
今回のコーチ陣は、投手コーチは権藤さん一人だけだが、ブルペンに入る巨人の村田善則バッテリーコーチとの関係が大事。村田は前回、スコアラーとして大変濃密な情報を侍ジャパンに提供してくれた。村田コーチならば、監督や権藤コーチに細かな提案もできると思う。
選手も起用の変化に対応してもらいたい。「早く起用法を伝えてほしい」ではなく「いつでも行けます」との気概が、首脳陣を勇気づけることにもなる。
※週刊朝日 2017年2月24日号