宮殿「松の間」で開催された「歌会始の儀」 (c)朝日新聞社
宮殿「松の間」で開催された「歌会始の儀」 (c)朝日新聞社
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 新年を祝う宮中の伝統行事である「歌会始の儀」の今年のお題は、「野」であった。

 天皇陛下と皇太子さま、秋篠宮さまらはモーニングの正装。秋篠宮紀子さま眞子さま、常陸宮妃華子さまが青や淡色、臙脂のロングドレスで華やぎを添える。一方で、長期療養中の皇太子妃雅子さまは、2003年を最後に姿を見せていない。静寂の中、雅子さまの和歌が詠みあげられた。

<那須の野を親子三人(みたり)で歩みつつ吾子(あこ)に教ふる秋の花の名>

 昨年の夏に家族3人で那須御用邸に滞在した際、そこに咲く秋の草花の名を愛子さまに教えた時の喜びを詠んだものだ。

 歌会始の選者を務める永田和宏さん(69)は、雅子さまの和歌に非凡なセンスを感じたと話す。

「『吾子に教ふる秋の花の名』の部分はリズム感がいい。さらに松虫草や女郎花(おみなえし)などを具体的に連想させる『秋』という言葉を選んだことで落ち着きを増した」

 永田さんは、「雑草という草はない」という昭和天皇の名言を思い出した。

「たとえば草の名を認識すると、風景がわっと立体的に立ちあがるでしょう。母親が子供に、図鑑や本だけではない、生きた知識を教える大切さや家族の愛情が伝わるよい歌です」

 ご静養に入った頃、同じ那須御用邸の敷地で、雅子さまは「出口のない迷路」に苦しんでいた。こんな関係者の証言がある。

「薄暗くなった時間になると、女官もつけずお一人で散歩されていました。小道ではなく、雑草が背ほども伸びた獣道のような場所をわざわざ歩いてゆかれる。まるで人と会うことを拒絶なさっているようなご様子だった」

 この時期を思えばまるで別人のような明るさだが、今回も家族との時間を詠んだ「個」の和歌。雅子さまは00年の歌会始から、皇太子さまや愛子さまを題材に詠み続ける。その姿勢は、人々の生活や被災地の状況、慰霊の旅など「公」を詠む天皇陛下や美智子さま、紀子さまと対比され、「皇后としてふさわしいのか」という批判もあがった。

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