「単に話を聞くのではなく、それが医学的な根拠に基づいていますし、気持ちが揺らぐときも、きちんとした方向性を示してくれる。大きな存在です」

 将来、赤ちゃんができたときには母乳で育てたいと考えたBさんは、主治医と相談のうえ、左乳房の部分切除だけ行い、放射線治療はしなかった。

 手術後は、「なんでこの年で? なんで自分が?」と自分のことばかり考えていたBさんだったが、保坂医師の診療を受けていくうちに、自分ではなく「誰かのためにできること」を探すようになり、また、自分をいたわることもできるようになったという。空いている時間に病院での小児がんの子どもの世話をするボランティアを始めた。

 そんなBさんに、保坂医師は「成長したんだよ、良かったね」と声をかける。

 残念ながら、わが国では精神腫瘍医自体、まだ少数でしかなく、がん診療拠点病院であっても常駐して診療しているところは多くない。ただ、緩和ケアのなかに精神科医や看護師、心理士などが関わって、がん患者の心のケアを行っているところもある。

「必要性を感じたら主治医などに相談し、つらい気持ちを我慢せずに専門家に診てもらってほしいですね」(保坂医師)

 がん患者の寿命にも関わる、心の有り様。2人に1人ががんにかかる時代だからこそ、がんになったら終わりではなく、その先をがんサバイバーとしてどう生きていくか。それが大切になる。

「がん患者さんにいちばん大切なのは、過去でも、未来でもなくて、今の自分に目を向けるということ。例えば空が青いとか、今日は風が冷たいとか、きれいな花が咲いているとか、ワンシーン、ワンシーンをカメラで切り取り、そしてそれを感じる。長生きは、その積み重ねの結果だと思います」(同)

週刊朝日 2016年12月16日号

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