どのがんでも起こり得る骨への転移。特に前立腺がんは骨に転移しやすく、進行すると痛みや骨折などを起こし生活の質が著しく損なわれる。近年は骨の健康への対策が進み、画期的な新薬も登場している。
前立腺がんの国内の推定患者数は約9万2千人で、2015年の予測では男性のがんでトップになった。
前立腺がんと診断された人のうち、転移も見つかる人は約1割いる。そのうちの大半が、背骨や肋骨、骨盤といった骨に転移している。
骨は通常、古い細胞の破壊と再生(代謝)を繰り返しながら元気な骨を保っている。代謝のバランスは「RANKL(ランクル)」という物質などが維持しているが、骨転移などがあると均衡が取れなくなってしまう。
前立腺がんが進行している場合、がん細胞を増殖させる男性ホルモンの働きを抑える「ホルモン療法」がおこなわれる。
「男性ホルモンには骨を強化する役割があります。それを抑制するホルモン療法を1~2年以上おこなうと、骨密度が低下して骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になりやすくなります」
こう話すのは、東邦大学医療センター佐倉病院泌尿器科教授の鈴木啓悦医師だ。骨粗鬆症になると、背骨の圧迫骨折や股関節の骨折が起こりやすくなる。これらが原因で車椅子の生活や寝たきりになれば、今度は肺炎にかかりやすくなり、命を落とすこともある。
「薬の進化により、前立腺がんで骨転移のある患者さんの生存期間は以前の約3年から約4年に延びています。しかし、骨折して歩けなくなってしまっては生活の質を保てません。骨転移と骨粗鬆症の両面から『Bone Health(骨の健康)』対策をすることが重要になります」(鈴木医師)
千葉県在住の石井健三さん(仮名・67歳)は、13年の春ごろから軽い腰痛に悩まされるようになったが、放置していた。
同年秋に市町村が実施する健康診断を受診。前立腺がんになっているかどうかを調べるPSA検査を受けると、正常値が0~4ng/mlのところ340ng/mlと異常に高い値が出た。石井さんはすぐに東邦大学医療センター佐倉病院の泌尿器科を受診した。
担当した鈴木医師は次のように話す。
「前立腺を詳しく検査したところ、がんが見つかりました。そしてCT(コンピューター断層撮影)検査と骨シンチグラフィで、骨に転移していることもわかりました」
骨シンチグラフィとは、がんが骨に転移しているかどうかを確認できる検査だ。石井さんは背骨と骨盤に合わせて10カ所ほどの転移があった。
がんの増殖を抑えるため、すぐにホルモン療法を開始。次いで、骨転移や骨粗鬆症の治療に使われるデノスマブの治療を始めた。