「転職先の会社が自分に何を求めているのかを判断し、そのニーズに応えるために何ができるかを考えることが大切。積み重ねていくと、実績につながります」(横澤さん)
大手企業の退職者を積極的に採用する中小企業や同業他社もある。口コミで職を紹介してもらうにも、普段のつきあいは大切。在職中に社外とのネットワークを築くことが欠かせない。
東京都内の柳澤健一さん(63)は6年前、認知症の母(享年89)の介護でアパレル関係の人材派遣会社をやめた。
退職後に生きたのは、かつての人脈。当時のつながりを生かし、今はデザイナーをアパレルメーカーに紹介する仕事だ。「後先を考えず、会社をやめてしまった」と退職時を振り返る。
「日中にひとりで留守番させるのが心配で、デイサービスを利用していました。母の帰る午後3時半に、家に戻る必要があった。妻も息子も仕事を持ち、私が母の面倒をみることに。管理職の立場で、遅刻と早退を繰り返すたびに後ろめたい気分が募りました。介護休業制度を調べたり、人事担当に相談したりする余裕がなく、会社に迷惑をかけられないと思い、やめました」
その後、個人で仕事を請け負い始めたが、母の面倒を24時間みる生活が続いた。仕事に身が入らず、十分な収入を得られなかった。
蓄えが減り、飲み代も惜しくなり、友達とのつきあいが途絶えた。引きこもりがちとなり、母へ八つ当たりしたことさえあった。
離職から2年後、転機が訪れた。
母が大腿骨を骨折し、車椅子生活に。老人保健施設を経て、特別養護老人ホームに入所した。柳澤さんは介護漬けの生活を見直すきっかけとなり、少しずつ自分の時間が増え、仕事に集中できるようになった。
「本腰を入れようと、勉強して職業紹介の免許を取得し、個人オフィスを11年9月に立ち上げました。少しずついい案件が入り、成約率も上がった。いい仕事ができると自信につながります。ビジネスのヒントがいろいろと浮かび、空いた時間にデザイナーと意見交換するなど好循環が生まれました」