ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、蓮舫さんを取り上げる。

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 野党第1党の党首になられた蓮舫さん。テレビ番組で、「必ずしもすべての女性が、『働きたい』とか『社長になりたい』わけではないと思う」的なことを仰っていました。「(男女平等を望むなら)男性的な向上心を持とう!」などと、本末転倒な煽り方をしないところは、さすがの冷静さです。その一方で、蓮舫さん自身の「だけど私は総理になりたい」という向上心は、手に取るように剥き出しになっていて、シビれました。総理になって欲しいかどうかはさておき、やはり蓮舫はこうでなくっちゃ。

 蓮舫さんは、かのアグネス・ラムさんや烏丸せつこ先生を輩出した才色美女の登竜門クラリオンガール出身(87年)です。蓮舫さんがテレビで活躍し始めた90年代初頭、同じくクラガ出身の『かとうれいこ』が男子の間で大ブレークし、「実は、あの蓮舫も……」と話題になったのを覚えています。そう考えると私は、蓮舫ヒストリーをかなり具(つぶさ)に魅せられて(同じ台湾繋がりのジュディ・オング先生にあやかって)きた世代かもしれません。当時、ビールのCMで「綺麗な上に頭のキレる女性として、男たちと激論を交わす」蓮舫さんが、やたらと世の女性たちの反感を買っていた記憶があります。「蓮舫、女のくせに出しゃばるな!」と。

 撫で声で男に媚びる女も嫌われますが、同時に「賢く綺麗な女」も、結局「女の敵」になってしまうという歯痒い現実を、私は蓮舫を通して学んだような気がします。開拓者や先人とは、まず身内から敵視されてしまうのが世の常ですが、蓮舫さんの場合、端(はな)から「そんなこと重々承知です」というスタンスなのが凄い。決して狼狽(うろた)えず、激昂せず、冷静沈着で物分かりの良いヒステリックな女。また、女性のショートカットは、男社会に対する戦闘態勢の表れとする捉え方がありますが、蓮舫さんに限っては「ショートカットが似合うのは美人の証拠(90年代に流行ったフレーズ)なんです。私、クラリオンの時代から一貫してこの短さを保っています。以上です」と答弁でもするような、さらに進化した勢いを感じます。実は年々その短さに拍車がかかっているのを、皆さんお気づきでしょうか? 総理の座を目論むと同時に、粛々と「美人の限界」にも挑み続けているのです。教育費の無償化の前に、蓮舫のデミ・ムーア化。選挙で負けたらスキンヘッドも辞さないと言ったとか言わないとか。

 ワイドショー司会時代、ジェームス三木さんの前妻をスタジオに招き、容赦なく追い詰め、「私、もう帰ります」と相手に言わしめた蓮舫。結婚前の本名「斉藤蓮舫」が、そこそこ笑いの取れるネタだったこと。みのもんたさんと司会をした「ヒットパレード’90s」で、Winkの相田翔子のことを「お翔子さん」と呼んだこと。「今の彼氏は謝国権か?」(by高田文夫氏)など、キラ星の如く蘇る蓮舫メモリーズの中でも、私が最も好きだったのが、『芸能界でいちばん仲が良いのは工藤静香』というエピソードです。20年以上前の発言だったと記憶していますが、今改めて噛み締めると、このなんとも言えぬ味わいが堪りません。「2番じゃダメなんですか?」と「もともと特別なオンリーワン」の友情は、その後も続いてらっしゃるのか。ていうか、御両人ともナンバーワンじゃなきゃ気が済まない女ですよね?

週刊朝日 2016年10月7日号