そんな日常を治療中から4コマ漫画にして、月数回ブログに載せ続けた。「励まされる」と人気で、50ページ分を新たに書き下ろして出版。病床でのスケッチと、治療記録と自らの思いをつづった二つの日記が、作品のネタ帳になった。
シカは治療を続け、少しずつ前向きな思いになる。
〈治療をやらされてるんじゃなくて やるぞという気持ちに〉変わっていった。今は5年間の経過観察中で、日常を取り戻している。
筆がなかなか進まなかったテーマもある。
一つは、病室で隣り合った40代ぐらいの女性Aさんのことを描いた話。
同じ卵巣がんで半年ほど先に入院していた。副作用や患者会のことを教えてくれ、本を貸し借りする仲に。治療が終われば、好物の餅菓子を一緒に食べに行こうと約束していた。
しかし、シカが体調を取り戻してきたころ、Aさんの夫からメールが届く。
〈Aが12月25日朝 旅立ちました〉
Aさん宅を訪ね、遺影に手を合わせた。シカの心を気遣っていた生前の様子を夫から聞き、涙した。
完成した漫画をAさんの夫へ贈ったら、「彼女も天国で喜んでいると思う」との感想を寄せてくれたという。
もう一つ描きにくかったのは、「人生長くて短い」と題した8ページ分だ。
弟夫婦の子と遊んでいたら母親と間違えられた。自らは子宮と卵巣を摘出し、子を産めない。伴侶や子を持つ同世代の友人や、無類の子ども好きの母への複雑な思い……。病気になって抱いた感情を、ありのままに漫画で表現した。
シカは、こう吐露する。
〈でも病気をして 人生の残りの時間を意識するようになった 人生長いし 短いから〉
〈色んな人と出会おう 疲れたら休めばいいんだし 一歩ずつ自分なりの歩き方で〉
藤河さんは言う。
「子どもを産めない体になったのは、女性として最も自信のないところ。でも、この点に触れずに描くことはありえなかった。自分より若い20代の女性患者さんもいる。しっかりと向き合い、思いを漫画で伝えようと考えました」
藤河さんはこうも話す。
「悲壮感たっぷりの漫画にはしたくなかった。一番つらいときこそ、ユーモアが大切。この本を読み、少しでも元気になる人が増えるとうれしいです」
※週刊朝日 2016年10月14日号