形成外科科長の鈴木茂彦医師はケロイドと診断し、手術と放射線治療をおこなうことにした。

 手術では、慎重にケロイド部分を切除・縫合する。手術が皮膚への新たな物理的刺激となり、ケロイドを悪化・再発させてしまうことも珍しくないからだ。

「手術では、皮膚にかかる力をできるだけ低くするよう切除法・縫合の仕方を工夫します」(鈴木医師)

 たとえば縫合するときに形にジグザグに縫い張力がかかる方向を分散する、また縫合により張力が強くなる部分は無理に切除しないなど、刺激を最小限にとどめる。

 さらに手術の3~4日後から放射線治療を開始する。放射線には線維芽細胞の増殖を抑える効果が期待される。用いるのは電子線というもので、真皮よりも深い皮下組織に影響を与えにくいので副作用のリスクを低く抑えられる。一般的に、15~20グレイ(Gy)を1~3日に1回、計4~6回程度に分けて照射する。

 平田さんは術後、5回に分けて合計20の照射を受け、傷痕の盛り上がりもなくなった。だが、1年半後に一部が再発してしまった。

「重症のケロイドの多くは、術後に再発してしまいます。しかし、すぐに保存的治療をすることで、症状を最小限に抑えることができます」(同)

 平田さんは再発部分に炎症を抑えるためのステロイドの局所注射(患部に直接注射)を5回受けた後、しばらくステロイド含有のテープを貼ったところ、ケロイドはおさまった。術後5年以上経つが、その後の再発はない。

 肥厚性瘢痕とケロイドの診断をつけるのは難しい。見た目は重症でケロイドのようでも、時間が経てばおさまっていく肥厚性瘢痕がある。また成熟瘢痕の中の一部分だけ、ケロイドになっているような症例もある。

「ケロイドでは、まず的確な診断で肥厚性瘢痕との鑑別をおこなうことが治療の第一歩です」(同)

 また、再発を防ぐために、一度ケロイドになったことのある人は、何かの手術を受ける際には、担当医師に申し出ることが大切だ。

週刊朝日  2016年9月23日号より抜粋