勝利を重ね、首位・ソフトバンクに近づく日本ハム。しかし、その要である大谷翔平の使い方次第では、追撃が難しくなると西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は危惧する。

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 日本ハムが驚異的なペースで勝ち続け、ソフトバンクの背中が見える位置にいる。8月の日程を見渡すと、両者の首位決戦が2カード計6試合ある。2カードともに週末。右手中指のマメに問題がなければ、日本ハムの投手・大谷翔平がそれぞれの日曜日の計2試合に先発することになる。

 優勝争いの中で、大谷の存在が重大なカギを握る。

 両者のゲーム差がさらに縮まったとき、ソフトバンクがどんな攻めを見せるかに注目したい。日本ハムの4番・中田翔の調子が上がっていないだけに、打者・大谷を封じ込めることができるかどうか。

 大谷は恵まれた体格で、腕の長さもある。外角球にもしっかりとバットが届く。今年はしっかりとボールを呼び込む形ができているので、緩急に攻められても崩されにくい。やはり、内角球がポイントだろう。低めの変化球では拾われる可能性がある。ベルトから上の高めのゾーンで、バッターボックスのライン上を通すような厳しい速球系を投げ込むことだ。バットとボールの距離をとらせないことが肝要だ。

 二刀流選手として「球界の宝」とされる存在。プロ4年で死球は二つしか受けていない。対戦する投手にも「ぶつけちゃいけない」という遠慮のような、見えざる心理が働いていたことは間違いないだろう。だが、優勝争いとなればそうも言っていられない。投手出身であるソフトバンク監督の工藤公康がミーティングでどういった指示を出すのかも見どころだ。

 逆に、日本ハムの監督・栗山英樹は、ソフトバンクの厳しい攻めから大谷をどう守るかを考えているだろう。エースとして、投げる試合は確実に勝ってもらいたい。投手に専念させたいと思う一方で、打者としても頼りたくなる。もし、死球を受けて登板日をずらすことになれば、他の投手にも影響を及ぼす。万が一、故障ともなると、追撃態勢がままならない。

 
 投手として登板する試合でも打順に組み込む「リアル二刀流」として出場する機会も増えるだろう。しかし、酷使した結果、クライマックスシリーズや日本シリーズに悪影響を与えてもいけない。どう起用するか。大谷の日々の状態をチェックしながら、臨機応変に対応していくしかない。

 ただ、大谷にとってはこのうえない経験になるよ。本当の意味で、主力打者と同様の厳しい攻め方をされたときにどう対応するべきか。それは実際に経験してみないとわからない。自身の打撃を崩されてしまうのか、それを乗り越えるのか。乗り越えることができたら、日本ハムは爆発的な力を発揮するかもしれない。

 8月のソフトバンクの対戦は25試合で、日本ハムのほか、ロッテも6試合ある。日本ハムはもちろんそうだが、ロッテも最後まで優勝をあきらめないだろう。意地のぶつかり合いを見せてほしい。

 話は変わるが、日本時間の8月4日早朝に、2020年東京五輪での野球・ソフトボールの種目復活の成否が正式に決まる。球界OBとして、絶対に復活できると信じているが、IOC総会での「決定」の声を聞くまでは安心できない。無事に復活すれば、4年後に向け、野球界はすぐに動き出す必要がある。

週刊朝日 2016年8月12日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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