「まったく喜んではおりません。はた迷惑な話だと思っています」
ハレの場の会見会場は、異例の緊張感に包まれた。
5月16日の三島由紀夫賞の受賞会見。フランス文学者にして批評家の重鎮、元東大総長の蓮實重彦氏(80)は、「お答えいたしません」「馬鹿な質問はやめていただけますか」。
きつい言葉に、記者らは虚を突かれた。
三島賞は1987年創設、今回で29回目。賞の規定は、
<文学の前途を拓く新鋭の作品一篇に授賞する>
というものだが、傘寿を迎えた最高齢の「新鋭」は、「80歳の人間にこのような賞を与えるという事態が起こってしまったことは、日本の文化にとって非常に嘆かわしいこと」と切り捨てた。
賞を主催する「新潮」編集長の矢野優氏は言う。
「蓮實さんは何十年ものキャリアを持つ有名な方。ただ小説としては3作目であり、選考委員の町田康さんも『群を抜いていた』と講評されたように、内容も賞にふさわしい、素晴らしいものだと感じました」
賞の基準は年齢不問だ。
「2004年にも、当時53歳でキャリアも積んだ矢作俊彦さんの受賞について議論がなされたこともありました」(矢野編集長)
蓮實氏と交流が深い、文芸評論家で早稲田大学文学学術院准教授の市川真人氏は、会見を蓮實という人の必然とみる。