妻:大抵のことは話し合いで解決してきた私たちだけど、パトリスさんには、どうしても承服しかねることがあったのよね。
夫:ああ、ラーメンの話ね(笑)。南フランスに住んでいたころ、村にすごくおいしいパン屋さんがあったんです。私は毎朝、焼き立てのクロワッサンやパン・オ・ショコラ(チョコレートの入ったパン)とエスプレッソが習慣なんですけど、ユリが朝からラーメン食べるんですよ!
妻:日本から送られてくる、思い切りアジアな食べ物を朝から盛大に食べるの。
夫:あれには困った。
妻:恨めしそうな顔して、それだけはやめて、って言ってましたね。けど、恋しくて仕方がないんですよ。パリとちがって、ラーメンなんて簡単に手に入らないから余計に。でも、おかげで南フランスのおしゃれな朝が台無し(笑)。
夫:お寺で修行したぐらいだから、日本の食文化については理解してますよ。けど、彼女も、そのときはフランスに来ているのだから、南フランスの雰囲気に合わせてほしかったな。
妻:まあ「雰囲気」っていうのは、ライフスタイルデザイナーにとっては大切な要素ですものね。でも、今、東京にいて、フランスが恋しいことはそんなにないよね?
夫:今の東京には、何でもあります。珍しいチーズやワインも、有名なブランドのチョコレートも。けれど、やっぱり高いですね。あるにはある、けれどまだ、特別な存在なんだね。
※週刊朝日 2016年5月20日号より抜粋