

早朝の東京・築地、マグロのセリ場に目利きが集う。日本の食文化を支える“マグロ屋”の矜持とは──。
午前4時半、懐中電灯と手カギ(魚を引っ掛ける道具)を片手にセリ場に集まる仲卸の人たち。5時半から始まるセリを前に、マグロを吟味して目星をつける「下づけ」という時間帯は、彼らの交流の場でもある。
「ここにいると癒やされる」
そう話すのは、マグロ仲卸業者の組合である大物業会会長で「大作早山商店」の早山豊さん(65)。仲卸の人はライバル同士ではあるが、ここでは皆が和やかに談笑する。マグロの価値を公平に決めるセリ場は、フェアプレー精神に満ちたグラウンドのようなものなのかもしれない。
築地市場の1日当たりの取扱高約16億円のうち、約2億5千万円をたたき出すマグロは築地の顔であり、日本の食文化の代表的存在だ。それゆえ、「天然ものに限る」「冷凍じゃなくて生が一番」「大間のマグロがいい」など、日本人のマグロへのこだわりは強い。
しかし、プロから見ると、そんな思い込みに複雑な心境を抱くこともあるという。
「生であっても後処理が悪ければ味は落ちるし、高度な技術によって新鮮な状態を維持している冷凍ものもありますから、マグロそのものを見極める力が必要なんです」(早山さん)
11月、市場は豊洲に移転する。
「市場は魚を評価する場所。漁業者と消費者の間に立ち、マグロの価値をきちんと伝えていく役割がある。場所が変わっても、しっかり守っていきたい」(仲卸「西誠」小川文博さん)
※週刊朝日 2016年5月6-13日号

