原発の稼働をめぐって司法の判断が2つに割れたことについてジャーナリストの田原総一朗氏は、原発問題を論じる上で自分自身の意見を持つ必要があるという。
* * *
全国の原発で唯一稼働している九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めを住民たちが求めた仮処分申し立ての即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は4月6日、住民側の抗告を棄却した。
基準地震動(最大の揺れ)の想定が妥当かどうか。火山による危険性はあるか。そして、事故に備えた避難計画は有効か。争点は、大きくはこの3点であった。
福岡高裁宮崎支部は、これらを踏まえた原子力規制委員会の審査について、「極めて高度の合理性を有する」「九州電力は説明を尽くした」として、住民側の訴えを退けたのである。原子力規制委の新基準に疑問を投げかけ、稼働中であった関西電力の高浜原発3、4号機(福井県高浜町)を停止させた3月の大津地裁の決定とは正反対の判断だ。
朝日新聞は4月7日の社説で「福島の事故後、国民は原発の安全性に強い不安を抱いた。それを考慮すれば、どちらが国民の不安を十分に踏まえた判断といえるかは明らかだ」と指摘している。それに対し読売新聞は同じ7日の社説で、「ゼロリスクに固執せずに、一定の危険性を想定して対処する。原子力発電所の安全対策の要諦を的確に押さえた決定である」と肯定的に評価した。
川内原発について住民側は、「一度に避難する事態に対応できない」「バスが足りない」などと、九州電力の避難計画に問題があると主張した。福岡高裁はそれらの問題点は認めながら、「避難計画がないわけではない」と述べ、住民の人格権の侵害には当たらないとしている。それに対して、朝日の社説は、「福島の事故では、多くの住民がスムーズに避難できずに混乱に陥った。その現実を十分に考慮した結論とは思えない」と批判している。
さらに、川内原発は桜島周辺の姶良カルデラ(陥没)などに囲まれた、巨大噴火のなごりをとどめる「火山銀座」の内側にある。福岡高裁は原子力規制委の新基準に基づいて策定された「火山影響評価ガイド」について「噴火時期が事前に予測できることを前提としている点を不合理だと言わざるを得ない」とし、住民側の主張を認めている。それでいて、原発を襲う破局的噴火のリスクの頻度は低いなどとして、「可能性の根拠を示さない限り無視できる」としているのである。「火山ガイド」が「不合理」だと認めながら、リスクは「発生の頻度が低いから無視し得るのが社会通念だ」と結論づけた。
朝日新聞の社説はこの点も批判しているが、読売新聞は「決定で注目すべきは、原発の安全性の判断について、社会通念を重視している点だ。『どの程度の危険性であれば容認するかという観点を基準として判断するほかはない』と強調した。最新の科学技術の水準をもってしても、安全確保には限界があることを踏まえた極めて現実的な判断と言えるだろう」と、朝日新聞とは逆の評価をしている。
私は、福岡高裁と大津地裁が正反対の判断をしたことを、司法の矛盾だなどと批判するつもりはない。そのことで、私たちは原発についていや応なく主体的に考えざるを得なくなるわけだ。
※週刊朝日 2016年4月22日号