作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。朝ドラの人気者とラグビー界のスーパーヒーローに共通点を見つけたと北原氏はいう。
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いま女友だちで集まると、たいてい朝ドラ「あさが来た」の五代さまの話題になる。「五代さまを殺さないで!」という声がNHKに殺到したという。ディーン・フジオカさんが演じる五代さまは、女を褒め、信じ、応援し、惜しみなく与え、深く愛し、真剣に生きる、美しい男です。
もちろん私も、五代さま推し。「あなたはFIRST PENGUIN(群れの中で真っ先に海に飛び込むペンギンのこと)」と、主人公の目を見つめ、彼女の勇気を称える五代さまに、私もしっかり生きようッ!とシュッとするのです。
昨年、五郎丸さんが降臨したときもそう思ったけれど、五代さま人気を見るにつれ、これで日本の女が男に「何を求めていないか」が、はっきりしたのではないでしょうか。
五郎丸さんと五代さまの共通点は、背の高さや気高さなど、いろいろとありますが、ハッキリと彼らにないものがあります。
断言します。日本の女はもう、男に「お笑い」を求めてない。もう、全く、求めてない。
思えば長い間、それこそ四半世紀近く、「お笑い」系が幅を利かせる時代が続いたものです。ジャニーズアイドルにだって、「面白さ」を求めてきた私たちです。ルックスよりも頭の回転が速く、場をもりあげ、笑わせてくれる「お笑い」芸人の地位は、日本史上過去最高だったのではないでしょうか。
それでも、最近、「お笑い」に疲れませんか? 彼らのギャハハという笑い声に、無表情になる瞬間、ありませんか。あまりにもな男集団ぶり、あまりにも無自覚な女性差別(お笑いという名で楽しげに行われる)、あまりにもなエロ話(お笑いという名で行われる内輪なノリ)に、セクハラ上司と一緒の飲み会にいるのと同じような気分を味わうこと、ないですか。しかも、ピラミッド型の男組織の中の上下関係なども見えちゃうし。派閥もあるようだし。サブカルも、権力臭したら終わりだし。「生き様」を語る芸人や、野心剥き出しの芸人に戸惑うことも多いし。女芸人の男芸人に対する気の使い方も大変そうだし。
最近は、お笑いに飢えたときは、志ん朝全集を大切に見ています。「芸」を見たいよね、やっぱり。「俺の面白さ」をアピールされるの、疲れるよね。男社会、つまんないよね。
ここ半年で彗星のように現れた五郎丸さんと五代さま。面白さのかけらもない、だけど気高く、女を尊重してくれそう(五郎丸さんやディーン・フジオカさんがどんな人かは知りません)な、そんな妄想を与えてくれる男たちに、女は今、微笑みたくなるのです。笑わしてくれなくてもいい、私が笑わしてあげたいから。
※週刊朝日 2016年2月19日号
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