ビッチェズ・ブリュー・ライヴ
ビッチェズ・ブリュー・ライヴ
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出た!ショーター抜きのロスト・カルテット・ライヴ
Bitches Brew Live (Sony/Legacy)

 何度も言うようですが、今年はマイルス・デイヴィス生誕85年にして没後20年という当たり年(こういう表現、正しいのでしょうか)。それを祝して、アメリカ・レガシーから強力なライヴ盤が登場した。しかも1枚物で、聴きやすく、お求めやすいという理想的な展開。もうボックス・セットはいりませんので、こういう軽めのブツを出していただきたいと激しく思います。

 とはいえ、問題は内容です。前半の3曲は、『ビッチェズ・ブリュー』がレコーディングされる直前、69年7月ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ。これまでブートレグでも出ていなかった、正真正銘の初登場音源です。やや短いのが気になるところではありますが、これだけしか演奏しなかったので、これはしようがありません。

 というのもニューポート・ジャズ・フェスティヴァルは、多数のミュージシャンが出演するために持ち時間を厳守しなければならず、しかもこの日はウエイン・ショーターが交通渋滞に巻き込まれて、出番に間に合わず、したがってマイルスとしても燃えなかったということでしょう。有名なロスト・クインテットが、本当のロスト・カルテットになってしまったわけです。

 演奏は、まるでブートレグのようなフェイドイン・ヴァージョンからスタート。おそらくテープを回し忘れたのでしょう。しかし、このフェイドインが緊張感を盛り上げ、プラスに作用しています。曲目は、やがて『ビッチェズ・ブリュー』に収録される《マイルス・ランズ・ザ・ヴードゥー・ダウン》と《サンクチュアリ》と、これまた聴き逃せません。とくに《ヴードゥー・ダウン》におけるマイルスとチック・コリアのソロは最強です。ショーターはいませんが。

 後半に収録されているのは、70年8月イギリス、ワイト島でのライヴ。もちろん、コンプリート・ヴァージョンです。これまでDVDや巨大なボックス・セット『Complete Album Collection』に収録されていましたが、日常的に聴きやすいかたちで再登場したことに拍手を贈りたいと思います。ゲイリー・バーツ、キース・ジャレット、アイアート・モレイラが加わった、空前絶後のオールスターズ。音源的にはもはや珍しいものではありませんが、それでもニュー・パッケージで聴くと、また新鮮に聞こえるから不思議です。そして、実際に演奏はまったくもって「新しい」のです。もう言うことございません。では、また来週。

【収録曲一覧】
1 Miles Runs The Voodoo Down
2 Sanctuary
3 It's About That Time/The Theme
4 Directions
5 Bitches Brew
6 It's About That Time
7 Sanctuary
8 Spanish Key
9 The Theme
(1 cd)

1-3:
Miles Davis (tp) Chick Corea (elp) Dave Holland (b, elb) Jack DeJohnette (ds)
1969/7/4 (Newport)

4-9:
Miles Davis (tp) Gary Bartz (ss, as) Chick Corea (elp) Keith Jarrett (org) Dave Holland (b, elb) Jack DeJohnette (ds) Airto Moreira (per)
1970/8/29 (Isle of Wight)

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