日本では「下流老人」が激増中だ。安倍政権は低所得の年金受給者に1人3万円の臨時給付金を配るというが、必要なのは選挙対策のバラマキではない。「貧困大国」と呼ばれるアメリカでは、じつは低所得者向けの公的扶助は結構整っている。月150ドルほどのフードスタンプ(食料クーポン)のほかに、連邦社会保障局(SSA)が運営し月額750~850ドル(約9万~10.2万円)が支給される補足的保障所得(SSI)、子どものいる困窮家庭への貧困家庭一時扶助(TANF)などがある。ジャーナリストの矢部武は日本には、下流老人へのセーフティーネットが必要だと訴える。
「貧困大国」と呼ばれるアメリカだが、じつは65歳以上の高齢者の貧困率は日本よりはるかに低い。米国勢調査によれば、14年の貧困率は14.8%だが、65歳以上では10.0%だ。一方、厚生労働省が14年7月にまとめた「国民生活基礎調査」では、日本の貧困率は16.1%で、65歳以上に限ると18%となっている。国全体の貧困率は大差ないのに、65歳以上では日本のほうがはるかに高い。この数字に日米両国の高齢者の貧困対策に取り組む姿勢と公的支援の中身の違いが表れているようだ。
日本に必要なのは一時しのぎの対策ではなく、下流老人の生活と尊厳を守るための体制作りである。筆者は今回の取材をもとに三つの提案をしたい。
まずは下流老人の最後の砦である生活保護を使いやすくすることだが、そのためには申請者の親族への扶養照会は見直したほうがよいのではないか。他の先進国を見ても、親族に扶養義務を課しているのはイタリアくらいで、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどほとんどの国では受給条件として問われるのは個人の資格だけである。
「親族への扶養照会があるから生活保護を申請したくないという高齢者は多く、孤立死の原因にもなっています。要するに、息子や娘に迷惑をかけたくないのです」(生活困窮者への支援活動を行っているNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さん)
親族に頼めないから役所に行っているのに、役所から親族に連絡がいくとなればますます申請しにくくなってしまう。このような状況を反映し、日本の生活保護の捕捉率は先進国の中で最低レベルにある。