「先生は所長就任後、研究分野ごとに分かれていた修士1年の研究室を一部屋に集約しました。分野の壁を超え、学際的な議論をするのが狙いです。研究環境の整備に熱心で、学生にはことあるごとに『何か改善点ある?』と尋ねてくれます」
夏のバーベキュー、忘年会、新年会、歓送迎会など、学生と酒を酌み交わして交流する場には、どんなに忙しくても顔を出す。学内の飲食店の店主は言う。
「学生に交じって、ワンコインランチ(500円)をよく食べてくれます。刺し身をのせた丼です」
そんな梶田さんについて、東大の小口高・空間情報科学研究センター長は言う。
「行政関係者が同席する会議があれば、研究費不足の問題などを積極的に訴える。自分の専門分野だけでなく、あらゆる分野の研究環境の改善に心を砕く」
学生に慕われるキャラクターについてはこう話す。
「もしかするとずっとエリートコースを走ってきたわけじゃないからこそ培われたのかもしれない」
梶田さんは埼玉大学出身。母朋子さんによると、第1志望の京大の受験に失敗し、一時は浪人も考えたが、「埼玉大に進み、どこか好きな大学院を狙う」と思い直した。埼玉大の弓道部で妻美智子さんと出会い、東大大学院ではノーベル賞物理学者の小柴昌俊さん(89)と巡り合った。朋子さんは「結果的に本当に幸運だった」と話す。
梶田さんは受賞発表の2日後、アフリカ・カナリア諸島に飛んだ。宇宙線の起源に迫ることが期待される巨大望遠鏡の着工式に出席する。国際研究グループが開発する最新鋭装置だ。「機械に弱い」はずはない。
※週刊朝日 2015年10月23日号