前出の柏木教授は、
「デザインコンペでは、最終決定後に微調整をすることは多々ある」
と言い、発表されたエンブレムには、審査委員や組織委員会の意向が反映されたとみられる。つまり、発表されたデザインは、佐野氏だけの作業で完成していない=佐野氏の盗用にはならない、ということだ。
佐野氏が応募当初のデザインを公表すれば、疑惑氷解の一助となりそうだが、「(ベルギー側の著作権は)一切侵していない」とする組織委員会と一枚岩である今、あえて類似性に触れる主張はしにくい状況だ。
では、リエージュ劇場とドビ氏が起こした訴訟の行方はどうなるのか。
著作権問題に詳しい福井健策弁護士は、ベルギー側の主張が認められるためには、[1]元の作品が著作物である[2]類似性が高い[3]佐野氏が元の作品に依拠している、の3要件が必須とし、「今回は客観的には難しい」と分析する。
「リエージュ劇場のロゴは著作物と言えるかは微妙です。あまりシンプルなマークに独占権を与えてしまうと、円滑な社会運営に支障が出るからです。類似性も低い。Tを元にしたようなシンプルなデザインの場合、ある程度、パターンが決まってしまうのは仕方がないことで、酷似していると言えるレベルでないと、著作権侵害は認められにくい。そして、3点目については、真偽不明ですが、ベルギー側が佐野氏の盗用を証明しなければならない」
現段階では、「盗用ではない」とする佐野氏の主張に軍配が上がりそうだ。
とはいえ、
「万が一収まってもずっとパクリ呼ばわりされる」
ネット掲示板の声が象徴するように、すっかりネガティブなイメージがついてしまったエンブレム。“夢の五輪”まで、あと5年間を持ちこたえられるのかは未知数だ。
※週刊朝日 2015年9月4日号より抜粋