国民置いてけぼりの状態で政府・与党が進める安全保障関連法案。ジャーナリストの田原総一朗氏は、国民に対して政府の幹部たちは今一度、誠実な説明をすべきだという。
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集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法案が、5月27日の衆院特別委員会で実質、審議に入った。
だが、国民のほとんどは、なぜ今、日本が集団的自衛権の行使を容認しなければならないのか理解できていない。もちろん集団的自衛権の行使とはどういうものなのかもわかっていない。例えば、25日に日本経済新聞が世論調査を発表しているが、安全保障関連法案についての政府の説明が「不十分だ」という答えが80%もあり、「十分だ」はわずか8%しかない。そして安倍晋三首相の「米国の戦争に巻き込まれない」との説明に「納得する」は15%、「納得しない」が73%もある。
政府は、中国が異常なまでに軍備を増強し、東シナ海や南シナ海で強引に領域拡大を推し進めていること、そして北朝鮮が核開発を進めていてアジアの現状が緊張度を高めていることが集団的自衛権の行使容認の要因としているが、防衛力の強化を飛び越えて、なぜ一挙に集団的自衛権の行使となるのか。さらにそれが周辺事態法の改正となり、なぜ自衛隊が地球の裏側にまで活動範囲を広げなければならないのか。さっぱり理解できない。
また、安倍首相は公明党と新3要件を閣議決定したことで、集団的自衛権とはいっても専守防衛の範囲内であり、海外派兵は認められておらず、だから他国の領域で戦闘行為を行うことはないと明言している。
だが、中谷元・防衛相は、24日のNHKの番組で、自衛隊の武力行使について、他国の領域内で敵基地を攻撃することも可能だとの見解を示した。そして25日には、菅義偉官房長官が「新3要件に当たれば、他国での戦闘も、敵基地への攻撃もあり得る」と明言した。
自民党の議員の数は多く、議員たちの発言でつじつまが合わないのならばわかる。だが、首相、防衛相、官房長官という直接の責任者の発言でつじつまが合わないのは、そもそも法案が無理なつじつま合わせの上に成り立っているためではないのか。
国際平和支援法案では、現に戦闘行為が行われていない場合は、戦争中の他国軍のための後方支援が、特別措置法ではなく、恒久法でいつでもできることになる。そして安倍首相も中谷防衛相も、自衛隊のリスクについては否定的である。「リスクが高まることはない」と言明している。
だが、後方支援だから安全だということにはならない。何よりも、実際の戦闘で、どこからどこまでが前方で、どこからが後方なのか判別のしようがなく、また武器、弾薬の類を運んでいても、相手国は当然戦闘行為、つまり武力行使ととらえて攻撃するはずである。それに、戦闘現場となれば後方支援を中止するとなっているが、それは具体的にどうするということなのか。支援していた友軍を見捨てて逃げ出すということなのか。第一、戦闘現場になって逃げることなどできるのか。
政府の幹部たちの矛盾した発言を聞いていると、新3要件そのものが、実はあいまいで歯止めの役割を果たしていないのではないかとさえ思えてしまう。
国民に納得してもらうためには、政府、自民党の答弁者こそが真摯に集団的自衛権の行使の範囲を国民に示すべきである。それを無理なつじつま合わせをしようとしていると、どんどん歯止めのないことが露呈してしまうのではないか。
※週刊朝日 2015年6月12日号