戦後70年の節目の今、日本を束ねる安倍晋三首相。法律家としての経歴を持ち、政治でも大役を経験している高村正彦自民党副総裁、横路孝弘元衆院議長、江田五月元参院議長は、今の政治をどう見ているのだろうか。
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司会・星浩朝日新聞特別編集委員:早速ですが、今の政治についてのご意見をうかがいたい。今国会で議論されている安保法制などで何かと注目を集めている安倍晋三首相。高村さんは党副総裁として近くでご覧になって、どう思いますか?
高村:安倍首相はロマンチスト(理想主義者)であり、リアリスト(現実主義者)です。新人議員の時に安倍さんが「ヒラ議員の時は心情をストレートに国民に訴えさせてもらう。しかるべき地位についたら、現実をよく見て国益に沿って行動したい」と言ったのをよく覚えています。国会議員の時点でしかるべき地位という気もするけど(笑)。なるほど今はリアリストですよ。私はリアリストとしての安倍さんを精いっぱい助けようと思う。過去のロマンチストとしての発言や、昔の著書『美しい国へ』の一部だけを見て安倍首相を批判している人がたくさんいるのは残念ですよ。
星:しかし、本当にリアリストであるなら、憲法改正や安全保障よりも、社会保障とか少子高齢化、経済再生のほうに政治的エネルギーを振り向けるべきなのではないですか?
高村:アベノミクスという言葉が世界共通語になっていることからわかるように、経済最優先でやっていると思いますよ。ただ、あらゆることの基礎の基礎は平和と安全。第1次安倍内閣のころから安保法制懇をつくってずっとやってきたことが、今、結実しかかっているということです。
横路:僕は安倍首相がリアリストとは思いません。僕が政治家として尊敬する旧西ドイツのシュミット元首相は、非常に冷静なリアリストです。ドイツはフランスとどう友好関係を持つかが大きな課題で、シュミットはジスカールデスタン仏大統領と月に一度は電話するか、会って話した。それも、重要なことをドイツで発表する前に電話した。それがコール首相とミッテラン大統領にも引き継がれ、だから、ドイツ統一の時にサッチャー英首相が「統一に反対しよう」と持ちかけても、ミッテランは断った。シュミットは私に「日本はアジアに本当の友達がいない」と言いました。安倍さんにも中国や韓国との間で、今言ったような努力をしてほしいですよ。
高村:アジアに友人がいないと言いますが、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国は日中韓ではぶっちぎりで日本と親しいですよ。もちろん、中国と韓国も大事な国。昨年5月に私が中国に行く前に安倍さんに会ったら、「11月のAPECでぜひとも首脳会談をやりたいと伝えてくれ」と言われた。リアリストとして、中国、韓国との関係を良くするのが国益と思っていることは間違いない。
江田:安倍首相はこれと思ったことにきっちり旗を立てて突き進んでいくタイプだけど、みんなでやっていくのは下手な感じがする。この前の米議会での演説でも、目の前にいるアメリカの人たちの大拍手を受けたとしても、これを中国や韓国の人が読んだらどう思うだろうか、という表現がいっぱい入っていた。得意満面でやりすぎて、どこかでポキッといくんではないかと危惧しています。
※週刊朝日 2015年6月5日号より抜粋