巨人の橋本到選手が好調だ。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、起爆剤となる選手はチームによい影響を与えるという。

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 巨人が原辰徳監督のインフルエンザというアクシデントも乗り越えて、白星を重ね始めた。その原動力となっているのが橋本到だ。川相昌弘ヘッドコーチが監督代行を務めていた4月16日のDeNA戦(横浜)で1軍昇格即3番に入って、先制打に本塁打まで飛び出す3安打3打点。巨人浮上の起爆剤となっている。

 開幕直後のチームは計算も立たず不安定で、早く軌道に乗せられたチームが浮上していく。登録してすぐに橋本を3番で起用したのは、川相ヘッドが原監督に電話してアドバイスをもらったらしいが、なかなかできる決断ではないよ。ただ、それまで巨人はクリーンアップをしっかり組めていなかった。原監督も現状をどうやって好転させるかを常に考えていただろう。橋本3番起用には、追い風を吹かせる意図もあったと思うよ。

 追い風とは何か。競争意識ももちろんある。加えて「チームで忘れていたものを思い出させる」効果もあった。橋本の長所は、コンパクトでありながら、迷いなく自分のタイミングで振り切るところにある。投手からしたら、どんな球種も、空振りしてもいいと振り切られることが一番怖い。

 
 昨年からそうだが、巨人の戦いを見ていると、相手投手の球種、軌道に合わせてバットを出す選手が多かった。巧さを感じるが、投手からすれば意外性はないし、甘いところにいかなければヒットで終わるケースが多い。長打が少ないのも強い振りがないからだ。

 一方、自分のタイミングで振り切るタイプは、良いコースに投げても、球種が打者の読み通りであれば一気にフェンスを越える可能性だってある。巨人の長野、坂本らに言えることだが、いつも当てにいくような形では、怖さはないよな。軽打は、チャンスであったり、試合状況であったりで変えればいい。橋本の振りはヒントとなったはずだよ。

 思えば、原監督は2月の春季キャンプ直前に「野性味」という言葉を使った。これも、局面での力強さを意味していたと思う。例えば四球の後。次打者の初球、投手がストライクをほしがって真ん中に速球が来ても、力負けしてしまうシーンも多いよ。相手に恐怖を与える力強いスイング。アンダーソンも復帰したが、橋本と同じで強いスイングができるだけにおもしろい。

 もう一点。橋本も長所として自覚してほしいことがある。両肘を絞るように胸の前でバットを構える。しかも打席の中でホームベースに近く立たれたら、投手は高低だけでなく、内角にも狭さを感じるよ。そこで内角をきれいに腕を畳まれて打たれると、投げるコースがない。橋本からすれば「相手は投げにくくなっている」と前向きにとらえてほしい。バットを振り込む中で、体力も昨年以上についているはず。昨年のような終盤のスランプもカバーできれば、不動のレギュラーになれる。

 ヤクルトの雄平、西武の森も、上背がなくても力強いスイングが売りだ。昔でいえば門田博光さんや福本豊さんかな。現役時代はとても投げづらかったし、嫌な感じがあった。

 ヤクルトが異常ともいえる投手陣の頑張りで上位にいるが、阿部不在とはいえ巨人には層の厚さがある。そして起爆剤となれる選手もいる。リーグ4連覇を狙う巨人がやっぱり中心になりそうだ。

週刊朝日 2015年5月8-15日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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