江戸城 @@写禁
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 今年、没後400年目にあたる徳川家康。関ケ原の合戦で勝利し、太平の世を築いた。「パクス・トクガワーナ(徳川の平和)」とも呼ばれる江戸時代、征夷大将軍は15人。うち3人を演じ、徳川家に詳しい西田敏行さんがその魅力を語った。

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「功名(こうみょう)が辻」(2006年)で家康をやってくれませんかという話がきました。ほんと素直に嬉しかったですよ。念願かなって、ようやっと自分の家康が演じられるんだなという感じです。僕は、決まった役のために資料をあさって勉強するっていうことはまずしません。台本に書かれていることに自分のささやかな歴史の知識を加えて人物をイメージしていきます。

 このときはまず、教科書に出てくる家康の肖像画に見た目を近づけたいと思った。家康の耳は福耳で大きい。特殊メイクに頼んで、付け耳をしてもらいました。

 それに声。自分の出せる範囲でですけど、どういう声が一番あっているか想像します。ハイトーンなのか、低めで抑揚(よくよう)がないのか。家康は抑揚のないほう。つややかな非常に良い声だったんじゃないかな。

 好みの女性や、女性と会ったとき、まずどこを見るだろうというのも考えます。家康は、まずお尻を見たでしょう。やっぱり、子孫を増やそうという気持ちがどこかにあるだろうから、良い子を産めるかどうかの判断材料として、まずはお尻をね。まあ自分がお尻好きだからかもしれないですけど(笑)。

 健啖家(けんたんか)だったということで、やっぱりちょっと太っているイメージは持っていました。死因は諸説ありますが、内臓の病気による死だろうな、ということも頭に入れておきました。

 あとは、みなさんご存じの家康ですよ、という部分はちゃんとキープして、そこから自分のオリジナルな家康を引っぱり出していく、という感じですかね。史実のみに縛られてしまうと表現が狭まってしまう。それはやってないんじゃないの、って歴史家に言われそうなこともやりました。

 例えば、よく寝転がっていた。殿様は上座に座ってじっとしているという時代劇のお決まりではなく、ゴロンと横になったり、指圧を受けたりしました。

 相談したディレクターには、「この大事な話をするときにですか」と言われました。でも、歴史的には大事な話になったかもしれないけど、そのときは普通に聞いてしまうことだってありえるでしょう。気を抜いているときに大事な報告が入ってもいいじゃないですか。偉い人だってコケることはあるだろうと考えて、廊下で転んでみたこともあります。こういうことで、役に人間的な幅が出る。表現している自分の中に自由な幅ができるんです。

 家康、秀忠、吉宗。大河ドラマで徳川将軍をこれだけ演じているのは僕くらいじゃないかな。

(構成 本誌・横山 健)

週刊朝日 2015年3月27日号より抜粋

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