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「まさか、私の論文を参考に化学兵器を作っていたとはね」と苦笑するのは、アメリカのコロラド州立大学名誉教授、アンソニー・トゥー氏(84)だ。

 トゥー氏は、毒性学の世界的権威として知られる。1994年6月の松本サリン事件の直後、化学専門誌「現代化学」からの問い合わせに、「戦争で使われるサリンは日本にはない」と説明。その直後、サリンに関する論文を発表すると突然、ファクスが届いた。日本の科学警察研究所からだった。

「土の中からサリンの分解物を検出できる方法はないかと尋ねてきた」

 トゥー氏は、アメリカ陸軍などの資料を入手、科警研に送った。その後、警察が極秘で、オウム真理教の拠点、サティアンがあった山梨県旧上九一色村の土を採取。調べたところ、サリン残留物が検出され、読売新聞が95年元旦にスクープ。それが捜査の大きなポイントになった。その後、トゥー氏はサティアンまで足を運び、捜査協力を続けた。そして、2011年からオウム真理教の元幹部中川智正死刑囚(52)と面会するようになる。

「なぜサリン、VXガスなど化学兵器をオウムが求めたのか、真相を知りたかった。私は『現代化学』94年9月号にVXガスについて論文を書きました。しかし、悪用されないよう、かなり簡略化した。だが土谷がそれを読んでいて『これを作れる』と中川に言った。その後、文献を集め、実際に作ったのです」

 拘置所での会話で、びっくりするような話も出た。

「マスタードガスの製造に成功。なんと200キロもあったそうです。イラン・イラク戦争で使用されたが、特効薬はありません。読売新聞の記事がなければ、マスタードガスでサリン以上の被害だったでしょう」

 3月にも中川死刑囚と面会したトゥー氏。

「面会でも手紙でも、彼は丁寧に説明してくれる。オウムに出会わなければ、いい医者になったでしょう」

(本誌取材班=上田耕司、牧野めぐみ、原山擁平、福田雄一/今西憲之)

週刊朝日 2015年3月27日号