作家の室井佑月氏は、安倍総理が元旦に発表した年頭所感についてこういう。

*  *  *

 安倍首相の年頭所感を読んで、なぜだかとても不安になった。

「なせば成る」

 などという言葉を持ち出し、

「日本を、再び、世界の中心で輝く国としていく」

 という決意で締めくくっている。

 でもって、安倍さんがいう日本が世界で輝いていた時代の説明が、戦後の高度成長期。

 少子高齢化で人口がどんどん減っていっているのにぃ?

 この国の偉い人たちは、口を開けば、経済、経済、っていう。それってさ、この国がふたたび焼け野原になっても、大多数の国民が犠牲になってもってことなのかしら。戦争が起これば一部の企業、一部の人たちは儲かるしな。

 それは今の経済戦争においてもだ。一部の人間は儲かるが、その他大勢は低賃金労働を強いられることになるだけだ。

 まだみんなは信じるのか。いつまで信じるのか。安倍さんやそのお友達、御用学者や御用エコノミストのいう話を。一部の上の人間(大企業など)が儲ければ、次第に下(庶民)の懐具合まで良くなるって話だよ。

 違うんじゃないか。一部の上にいる人間の安定した生活を維持するため、多数の下の人間の犠牲が必要なんじゃないか。今がそうなのに、これから先、変わるなんてことがあるんだろうか。「なせば成る」ってかけ声で、うちらにどこまでも頑張れって?

 まあ、去年の年末の選挙結果を見れば、まだみんな信じたいみたいだし、まだ騙されていたいようだ。

 けど、この話はどうなの?

 元日の東京新聞に書いてあった、「武器購入国に資金援助 途上国向け制度検討」という記事。

「防衛省が、日本の防衛関連企業から武器を購入した開発途上国などを対象とした援助制度の創設を検討していることが分かった。武器購入資金を低金利で貸し出すほか、政府自ら武器を買い取り、相手国に贈与する案も出ている。政府開発援助(ODA)とは別の枠組みとする方針だ」

 というもの。日本の兵器メーカーは儲かるわな。安倍さんとそのお友達からすれば、上が儲ければ下にも波及する、人を殺すための武器で儲けても、このことは正義って話になるのか。

 けれど、先に書いたように、あたしはそんな風にならないと思う。

 いいや、違う。あたしがいいたいのはそんなことじゃなかった。一部の上にいる人間(日本)の安定した生活を維持するため、多数の下の人間(開発途上国)が犠牲となってもいいのだろうか、ということ。

 途上国が金をかけなきゃならないのは、武器なんかじゃない。途上国を本気で支援したいなら、胸を張って誇れるほかの日本の技術力にすればいい。その国の国民生活が豊かになるようなものだ。結局、儲かればなんでもアリかい。

 恥ずかしい。あたしは。

週刊朝日  2015年1月23日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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