2015年の大学受験がいよいよ始まる。ベストコンディションでセンター試験当日を迎えられたら、あとは実力を発揮するのみ。とはいえ、あがり症だとか、プレッシャーに弱いという人もいるだろう。実は、そんなときにも“東洋の知恵”が効く。武術からきた「ある形」を手で作ることで、緊張や不安がすっと消え、平常心が戻ってくる驚きの技があるというのだ。
武術研究者で、古武術を使った介護法でも知られる甲野善紀(こうのよしのり)さんが考案したのが、「鷹取(たかとり)の手」。
「手のひらのくぼみの辺りには『労宮(ろうきゅう)』という場所があり、昔から『鎮心の急所』として知られていました。ここを刺激すると、横隔膜が下がり、緊張感が和らぐのです」
労宮を押すだけでもいいのだが、さらに効力を強くするために考案されたのが「鷹取の手」だ。
まず、親指、人さし指、小指の先端を寄せるようにしてくっつける。両手で同じ形を作ったら、薬指を外側に反らせるため、薬指どうしをひっかける。そして、肩を広げ、胸が左右に開くようにする。それだけだ。いすに座ったままでもできる。
記者も試してみたが、手でこの形をとるだけで、不思議と心がすうっと静まっていく感じがした。「試しに」と甲野さんが、道場にあった日本刀を取り出し、顔の横にひゅっと刃を走らせた。けれど不思議と不安も恐怖も感じない。次に、「鷹取の手」をほどいて同じようにされると、身がすくんだ。この違いは何?
「体と心はつながっています。恥ずかしいときに顔が赤くなるなど、心の状態が体に出るなら、その逆もある。体を使うことによって、心をある状態にもっていくこともできるのです。最近の教育では、体が精神状態に影響することを無視しすぎです」(甲野さん)
集中力を高める技もある。用意するのは、スポンジなど小さくて柔らかいもの。果物などを包む白い発泡スチロールのネットでもいい。これを2~3センチほどの小片に切り、指の付け根に挟んで手を握るだけ。逆に、指先に挟んでしまうと気が散って不安が高まるので要注意だ。
また、自信を高めたいときは「旋段(せんだん)の手」を。まず手で拳を作ってから、人さし指をぎゅっと内側に折り込み、小指は曲げたまま外側に。親指は甲のほうへ反らす。そうすると、自然に指がらせん状を描く。この状態になると、意識しなくても肩が落ちて脇が締まり、体全体に力がみなぎる。「自然に自信がわいてくる」(同)という。
指の動きは心の動きにも直結している。仏像の印や浮世絵などに見られる手の動きも、昔はその効用が広く知られていたからかもしれない。
知るほどに奥が深い“東洋の知恵”。先人の技を味方にして、受験本番では実力を発揮してほしい。
※週刊朝日 2015年1月23日号より抜粋