「テニス界の王子」錦織圭(24)が日本の男子テニスの歴史を動かした。
ニューヨークで行われた全米オープンの男子シングルス準決勝で世界ランキング1位、4大大会7度優勝のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を撃破し、日本人として初めてテニスの4大大会シングルス決勝に挑むことになった錦織。現地で取材する記者が語る。
「錦織は、サッカーの本田圭佑(ACミラン)とは逆で、大きな目標を語るようなタイプじゃない。それが、4回戦で勝ったときに『勝てない相手はいない』と言い、ベスト4入りした後も『決勝まで行きたい』という言葉を口にしました。自信が出てきたということでしょう。今回はたまたま、という話ではなく、確実にレベルが上がっているのだと思います」
強さの秘密は何なのか? ベテランのテニス記者は、昨年末にコーチとして迎えたマイケル・チャン氏の存在が大きいと指摘する。
「『相手が世界一でもたたきつぶすつもりでいけ』と、いつも錦織に言ってるそうで(笑)、チャンは精神力のプレーヤーでしたから、その影響を強く感じます」
こんなシーンがあった。準々決勝の前の練習後、試合開始までの間のことだ。
「チャンさんが錦織に強い口調で身ぶり手ぶりを入れながら話し掛けていたんです。錦織本人は『戦術の確認です』と言ってましたし、そういう内容でもあったんでしょうけど、気合を入れ、鼓舞しているように見えました。チャンさんは勝負師という感じです」(前出記者)
精神面だけでなく、技術的にも「錦織のストロークは粘り強くなってきた」と言われ、「チャンの現役時代と似てきた」という声も。
「空中でプレーする“エア・ケイ”が有名でしたが、減ってます。あれはパフォーマンス的な意味合いが強く、身体への負担が大きくて消耗しますから。それを減らしているのもスタミナがついた一因かもしれません」(ベテラン記者)
4回戦、準々決勝と2試合続けて4時間超のゲームを勝ち抜いた錦織のスタミナが現地では話題になり、“マラソンマン”と呼んだ海外メディアもあった。
錦織の番記者も時差の関係で、ここ2試合はほぼ徹夜で原稿を書いているという。
ベテラン記者の証言。
「錦織を間近に見ると、堂々としているというか、自信を感じます。わずか13歳でアメリカに渡り、テニスの天才少年ばかりの環境の中で揉まれ、生き残った。それが彼のバックボーンになっているのでしょう。英語は完璧で、アスリートにとって実は非常に問題になる言葉の壁もない。我々は、日本人として96年ぶり、と騒いでますが、彼は、見た目は若い日本人でも国際感覚を持った国際人で、だからこその偉業だと思います」
(黒田 朔)
週刊朝日 2014年9月19日号より抜粋、修正