タイで代理母出産を依頼し、24歳にしてすでに計16人もの子どもを持ったとされるA氏(24)。地元紙バンコク・ポストによれば、渦中のA氏は昨夏、代理出産の仲介業者に「毎年10人の子どもをつくり、百人から千人の子どもをもうけたい」と説明したという。
A氏が代理出産という手段で多くの子どもを望んだ理由は何か。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が語る。
「タイやカンボジアの農村では、中学生くらいの少女が10万円以下で売買され、都会で売春をさせられている現実がある。代理出産に100万円以上の費用を払い、ベビーシッターもつけている時点でおカネがかかりすぎており、人身売買の可能性は考えづらい」
相続税対策という説もしっくりこないという。相続に詳しい長谷川裕雅弁護士が解説する。
「現在の日本の法律では、子どもが外国籍で親子が海外に居住している場合、親が海外で保有する資産には相続税がかからない。日本の相続税率は高いので、仮にA氏が親子ともに海外に居住し、資産も海外で保管して子どもに外国籍をとらせるならば、かなり課税を免れる。ただし、そもそも課税されないので、日本の相続税を免れる観点では16人も子どもを持つ意味を説明できません」
バンコク・ポストの報道では、A氏に代理出産を仲介した仲介業者は、取材に対し、こう明かしている。
「なぜそんなに多くの子どもを望むのかとA氏に問うと、『投票のために大家族を持ち、日本での選挙に勝つ』と答えた。『世界のために私ができる最善のことは、たくさん子どもを残すこと』とも話していた」
A氏の行為に倫理上の問題はないのだろうか。才村眞理・帝塚山大学元教授(児童福祉)はこう語る。
「子どもの健全な発育には乳幼児期に親との愛情の基礎を築くことが必要。ベビーシッター任せでは、いくら栄養状態がよくてもネグレクト状態と言えます。子どもたち自身も将来、自分の生まれた経緯に納得できないのではないか。子どもがモノとして扱われているような印象を受けます」
A氏の代理人という日本人弁護士は12日、「プライバシーに関わる問題」として報道各社に関係者への取材自粛を要請する「申入書」を送付。次のように記されていた。
<ライフスタイルの多様化や生殖医療の発展に伴い、様々な形の家族が誕生しており、倫理上の問題を含め、話題になっています。(略)個人の特定に繋がる情報を交えてそのような報道がなされた場合には、当該家族、特に将来ある子ども達にとって取り返しの付かない被害をもたらすことになります。(略)プライバシーを侵害する取材・報道行為を行われた場合には、必要な法的手段をとる所存であることを申し添えます>
はたして「ライフスタイルの多様化」で片づけられる問題なのだろうか。本誌は弁護士事務所に取材を申し込んだが、「お盆休み中なので対応できない」と答えた。真相は今後、どこまで明らかになるのか。
(今西憲之/本誌・小泉耕平、牧野めぐみ)
※週刊朝日 2014年8月29日号より抜粋