羊が1匹、羊が2匹……。眠りを誘うこの言葉、実は羊の英語「Sheep」と眠りの英語「Sleep」を引っかけていることをご存じだろうか。知っていそうで意外に知らない睡眠の世界。今回はシニアの眠りをテーマに“新事実”を紹介する。
「眠れなくてもいいから、体を休めるため布団へ」という“常識”は今、否定されつつある。
「私たち精神科医の間でさえ、まことしやかに信じられていたんですが……」
そう話すのは『睡眠のはなし』(中公新書)の著者で、3月末に厚生労働省が公表した「健康づくりのための睡眠指針2014」をまとめた日本大学医学部精神医学系主任教授の内山真医師だ。
「でも実際は、横になるだけでは体も脳も休まらない。最近は脳が休む、つまり『眠る』という行為そのものが大事だとわかってきました」(内山医師)
それを示す研究データがある。睡眠不足が糖尿病や高血圧などの生活習慣病のリスクを高めることがわかっているが、不眠症の人が健康な人のように布団に入って横になっても、生活習慣病は改善されなかったというのだ。
もう一つ、睡眠の“新事実”として知っておきたいのは「熟睡感」だ。長時間ぐっすり眠れれば翌朝はスッキリ起きられると思っている読者は多いだろう。しかし、この熟睡感を得るメカニズムも実は、いまだ解明されていないという。
「熟睡感があっても昼間に眠気が出ることもあるんです」(同)
例えば、こんな説がある。眠りが浅い「レム睡眠」と深い「ノンレム睡眠」は1.5時間ずつ繰り返され、その周期に従ってレム睡眠のときに起きると、熟睡感を得やすい──。だが、それも勘違いだと内山医師は指摘する。
「人間の睡眠周期の平均は100分±30~40分で、明け方になるほどレム睡眠が長くなる。体調や日によっても異なり、睡眠周期から起床時間を決めるのは非常に難しい。明け方には全般的に眠りが浅くなり、そこで起きることになります」
ところで加齢で睡眠時間が短くなるだけでなく、実は男女差があることも判明してきた。男性が年をとると「早寝早起き」になりやすいが、女性はそういう傾向が見られにくいという。これは今回の睡眠指針で初めて明記された。
そこで問題となるのは夫婦が同じ寝室やベッドで眠るケースだ。妻が、夫に就寝時間を合わせるとなかなか寝付けずに不眠になる恐れが出てくる。
「早寝早起きは健康に良いと思われていて、妻は夫に合わせようとする。それで眠れれば問題はないですが、結局、妻が寝付くのは1、2時間後になることも。夫婦が寝る時間を合わせる必要はなく、それぞれに合った眠り方が大事です」(同)
最近、睡眠不足が認知症のリスクを高める可能性があるとわかってきた。だが、それは単に長く眠ればいいというものではない。適度な睡眠をとることが大事なのだ。
※週刊朝日 2014年7月18日号より抜粋