国民の「疲れ」に60年間、応えてきた武田薬品工業のアリナミンシリーズが誕生したのは、高度経済成長が始まった1954年。
それまで日本では、戦後の復興期で慢性的に栄養が不足していた。エネルギー産生に重要な役割を果たすビタミンB1は、体に吸収されにくい欠点があったが、京都大学の藤原元典教授が、ニンニクから誘導体を発見。ニンニクの学名「アリウム・サティブム」とビタミンB1の化学名「チアミン」を掛け合わせ、「アリチアミン」と名付けた。これがアリナミンの名前の由来だ。研究を進め、安定化させたのが、現在の誘導体「フルスルチアミン」の前身となる「プロスルチアミン」。これを主成分に、アリナミンシリーズ第1号となるアリナミン糖衣錠を世に出した。高度経済成長期での肉体労働に疲れた男性たちに受け、すぐに人気商品となった。
「ただ、このプロスルチアミンには弱点があった。『ニンニク臭』です」(同シリーズのマーケティングを担当する田原光博さん)
それを和らげたのは、意外にもコーヒーだった。
「ニンニクの利いたステーキを食べた後、コーヒーを飲むと臭みが消えるところから着想しました」(同)
「フルスルチアミンの液剤化には苦戦し、10年くらい試行錯誤を続けたんです」(同担当の上田英明さん)
このころ、女性の社会進出も増え、オフィスワークで疲れた女性にも飲まれるようになった。
90年代に入ると、人々の疲れの種類に変化が起きた。パソコンなどでの仕事が増え、肉体疲労から目、肩、腰の疲れを訴える人が多くなったのだ。血行を促すビタミンEなどを追加した「アリナミンEX」を発売。
商品改良が続き、現在「アリナミンEXプラス」となっている同商品は、今、市販の一般用医薬品の中で最も売れている商品だ。アリナミンシリーズは、メーカー出荷ベースで年間約350億円の売り上げを誇る。
「60年続き、いちばんうれしいのは、家族間で代々継承し、3代で飲んでくださっていること」(2人)
挑戦はこれからも続く。
※週刊朝日 2014年6月27日号