がんを宣告され、しかも末期と言われ、絶望しない人はいないはずだ。しかし、そこから長く命をつないでいく人たちが、確かにいる。

 肺腺がんを患う青木晴海さん(58)だ。08年、咳が続くので総合病院を受診すると、肺からリンパ節への転移がわかった。専門病院で手術したが、がん細胞は大動脈と肺動脈に浸潤していて取れず、そのまま胸を閉じた。

 青木さんは情報学が専門の大学講師で、「アサーティブな考え方」を学生たちに教えてきた。それは自分の気持ちを大事にし、相手との関係をより良くするため、率直に「ことば」で伝えることだという。

「自分の研究テーマを、病床で実践した形になりました」(青木さん)

 手術の影響で、青木さんは声を出せなくなった。切開した場所が声帯の動きをつかさどる反回神経に近く、麻痺が起きたのだ。

「医師に『あきらめてください』と言われたけど、私にとって声がでないのは、がんになったことより重大事でした」

 入院しているにもかかわらず、声帯専門科がある別の病院を探し出し、「リハビリに通いたい」と、かすれ声で主治医に訴えた。了承を得てリハビリを続けた5カ月後、声を取り戻すことができた。

 放射線と抗がん剤治療を受けながら、09年2月、大学に復帰。その1年後、肝臓転移が見つかった。働きながら抗がん剤治療に通って5カ月後、肝臓のがんは縮小していた。

 
 その時、主治医から分子標的薬の治療を受けないか、と強くすすめられた。

「このまま穏やかな維持療法で仕事を続けていきたいと思っていたので戸惑いました」(青木さん)

 もはや完治は難しい。それなら、がん細胞の活動を抑えられるよう、全身を良い状態に保つことこそ大切ではないか。未知の薬を体内に入れればバランスを崩しかねない――どうしても折り合えず、11年3月、青木さんは転院した。

 新しい主治医は、青木さんと話し合いながら、抗がん剤を投与するペースを決め、昨年6月以降は治療を休止した。今は定期検査を受けながら働いている。幸いにも、がんは大きくなっていない。

「患者の願いは一日も長く生きること。その病院や主治医が、自分を長く生かしてくれるのかは、感覚でわかるものだと思います」

 青木さんは前の病院で2度カルテ開示を求め、自分の治療経過をつかんでいる。医師に任せっぱなしにしたくないからだ。下記の10カ条は、自身の闘病体験をまとめた『生きのびるためのがん患者術』(岩波書店)から抜粋した“患者の心得”だ。青木さんが言う。

「治療の主役は私たち、つまり患者なんです」

がんになってからの心得10カ条
・ 告知をしっかり受け止め、「自立心」を持つ
・ 自分の気持ちを言葉で医療スタッフに伝える
・ 検査や治療内容を日付順に記録、カルテや画像も入手する
・ 複数の医師に相談する
・ 抗がん剤の効果とリスクを確認する
・ 心置きなく頼める友人に支えてもらう
・ 重要な決定の時は友人や家族を「記録係」に
・ がんばる自分にご褒美をする
病気のこと以外にも関心を持つ
・ がんの話題は情報源に気を付ける
※青木晴海さんの著書『生きのびるためのがん患者術』をもとに作成

週刊朝日  2014年6月20日号より抜粋