安い学費で高い質の授業を受けられることで人気の「公立中高一貫校」。今年注目されたのが県立千葉高校の動向だ。 

 千葉県庁から徒歩10分。住宅街の中の緩やかに続く坂を上った高台に、県立千葉高校はある。

 1878(明治11)年の創立以来、県内トップレベルの公立進学校として君臨し、20年前の1994年の東大合格者は57人(大学通信調べ)。その後は減少が続き、2002年には私立の新興校、渋谷教育学園幕張高校に県内トップの座を譲ったものの、現在もほぼ毎年20人を超す合格者を出し続ける名門校だ。

 その敷地内に「県立千葉中学校」が開校したのは08年。同じ校門をくぐり、高校校舎を通り抜けたテニスコートの上に2階建ての中学校校舎が建った。

 少し説明しよう。公立中高一貫校は99年施行の改正学校教育法でその設置が認められた。以降、全国で広がり、13年5月1日現在、184校を数える。

 公立中高一貫校には3種類ある。

(1)中学と高校を一つの学校にする「中等教育学校」。高校での募集はなく、6年間全員が共通のカリキュラムで学ぶ。

(2)同じ設置者の中高を接続する「併設型」。中学からは受験なしで高校に進学できる一方、高校での募集もある。

(3)市町村立中学と都道府県立高校など設置者の違う両者をつなげ、高校入学時には学力検査以外でも進学可能な「連携型」。

 県立千葉は(2)の「併設型」にあてはまる。高校入学時に240人の募集枠があるものの、内部進学者は高校受験がなく、じっくり学べる上、学費を安く抑えられるとあって人気を呼び、初年度の競争率は27.06倍に達した。定員80人(男女各40人)に実に2165人もの児童が出願したのだ。

 あれから6年。厳しい競争を勝ち抜いた“精鋭”である1期生が今年初めて大学受験に臨んだ。果たして、その結果は――。

 東大は前年より4人少ない21人(うち現役10人)。現役10人中、1期生は3人にとどまった。京大は前年比7人増の12人(同4人)とはいえ、1期生は1人だけだ。

 確かに県立千葉は、全国の公立中高一貫校のなかでの東大・京大合格者数はトップレベルといえる。ただ、30倍近い競争率を勝ち抜いた1期生への期待値は相当高く、残念がる関係者も多い。

 そんな周囲の落胆を、高岡正幸校長は全く意に介していない様子で豪快に笑い飛ばす。

「うちの生徒はもっと厳しく指導し、東大へ進むよう誘導していれば40人は入ったはずです。でも、そんな教育をしていないだけ。本当に学びたいことを応援している」

 例えば、1期生のある女子生徒は、「将来、建築家になる」という明確な夢を持っていた。東大に入学すれば2年の夏学期までの成績をもとに3年からの進路を決める「進振り」で、別の道に進まざるを得ない可能性が出る。このため「入学直後から、たっぷり時間をかけて学べる」との理由で神戸大を受験、合格した。

 確かに、東大の合格者数だけに着目すると減ってはいるが、旧帝大や国立大の医学部などと合算すれば例年より15人ほど多い合格者が輩出している。

「高校出身の教員たちの下で、深くじっくり学んだ内部進学生と、厳しい高校受験を経験した生徒たちが、互いに刺激し合い、学校としての“地力”は増しています」(高岡校長)

週刊朝日  2014年4月11日号