ラージヒルの銀メダルを右手に、団体の銅メダルを左手に持つ葛西紀明=川村直子撮影 (c)朝日新聞社 @@写禁
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 41歳にしてジャンプ男子ラージヒルで銀メダルを、団体でも銅メダルを獲得した葛西紀明選手。

「何度も悔しい思いをしたが、今回は葛西のための五輪だったんじゃないか」

 その快挙を手放しで喜ぶのは北星学園大(札幌市)の佐々木敏(つとむ)教授だ。高校時代から面識があり、毎年、身体測定を担当する。

「『あれほどの逸材はほかにはいない。俺たちの宝だ。メダルを取らせられなかったら日本のジャンプ界の恥だ』と言われ続けた選手。他の代表選手に比べて身体能力が秀でていて、ノルディック複合など他の種目だったら、もっと早く金メダルを取れていた」

 そう語る佐々木教授によると、葛西選手のアスリートとしての特性は「瞬発系と持久系の筋肉が同居している」点にある。

「極めて珍しい筋肉の付き方。あれだけのジャンプを飛びながら、1500メートルを4分20秒で走る。代表で次に速いタイムは4分44秒なので断トツです。持久力があり、自分を極限まで追い込む練習を長時間やっても疲れない」

 世界の有力選手は軒並み20歳代前半で、35歳を過ぎれば体力の測定値が落ちていくとされる。だが葛西選手は20歳のころとさして変わっていない。

「昨年の垂直跳びは71センチ。『こんなもんでいいですかね』と言いながら軽く跳んでですよ。立ち幅跳びは287センチ。20歳のころとほぼ同値で驚異的です」

 しかし、練習量と身体能力だけでは世界の頂点を極められない。実際、2002年のソルトレークシティー五輪ではこれまでにない練習を重ねたが、「気持ちが突っ張り切っていた」(佐々木教授)せいで、個人2種目とも40位台と低迷した。

 余分な筋肉がつくことでスピードが出すぎるなど、バランスを逸すると能力が生かし切れないのだ。近年フィンランド人コーチを迎え、パワーを十分発揮できるよう試行錯誤を繰り返した。さらに精神面での余裕も、メダル獲得の一因だと佐々木教授は指摘する。

「団体後に『みんなで取った銅メダル』と言いましたが、昔なら『俺が取らせてやった』と言っていたはず。前回のバンクーバー五輪までは、取材の申し出にも『僕はいいです』とナーバスだった。それが今大会ではずっと笑顔。周りを見渡せるようになったのが一番の勝因」

 今後はどうなのか。「この能力と数値なら45歳で迎える次の平昌(ピョンチャン)五輪まで活躍できる」(佐々木教授)。世界の「レジェンド」、どこまでも飛び続けそうだ。

週刊朝日  2014年3月7日号